副鼻腔炎にマクロライドを長期に使用する?

抗菌薬は必要以上に長期間使わない。
はもはや常識ですね。

しかし、近年の治療法をみると
”例外”が存在しています。

今回は、
そんな抗菌薬の例外についてご紹介します。

マクロライド療法とは

近年、ある種の抗菌薬を
数か月にわたって使用するケースがあります。

副鼻腔炎に対する「マクロライド療法」です。
クラリスロマイシンが比較的多く使用されています。
用量としては、通常の感染症に使われる半分量。

それでは、簡単にこの処方の
歴史について説明していきます。

マクロライド療法の歴史

そもそも、
このマクロライドの使い方は、
実は「日本発」だったんです。

はじめは、
びまん性汎細気管支炎という疾患に
14員環マクロライドが有効とされ広く行われていました。

びまん性汎細気管支炎は
気道に原因不明の慢性炎症を起こす病気で、
75%に慢性副鼻腔炎が合併しているそうです。

この気管支炎にマクロライドを使っているうちに、
副鼻腔炎にも有効なのでは!?という報告がされ
今日ではすごく広く用いられるようになっています。

ただ一方で、
なんでもかんでもマクロライドを使って放置する、
といった状況も目立ってきて、
その使い方が問題になっているという現状もあります。

少量マクロライドの薬理

では、慢副鼻腔炎に対して
少量のマクロライドはどのような作用があるか?
についてです。

抗菌薬はその名の通り、
本来は菌を殺したり増殖を抑えるために
使われるものです。

しかし、マクロライド療法は、
本来の抗菌作用を狙ってのものではありません。

考えられている作用機序としては、

・抗炎症作用
・免疫系への作用
・細菌のバイオフォルム形成・付着抑制作用

などがあります。

このようなマクロライドの
「抗炎症作用」に関しては、
び漫性汎細気管支炎や滲出性中耳炎
の治療でも発揮しています。

マクロライドにこの作用を期待する際の
用量については議論されていますが、
常用量の半量程度で処方されることが多いです。

クラリスロマイシンであれば、
200mg/日程度で継続することになります。

また、マクロライドの抗炎症作用が
発現するまでには2~3か月を要する
ため服用は長期間に及びます。

すべてのマクロライドで抗炎症作用があるのか?

マクロライドのうち
抗炎症作用が認められるのは、
「14員環」のものとされています。

クラリスロマイシン以外のものであれば、
ロキシスロマイシン(ルリッド)
エリスロマイシン(アイロタイシン)
などが同じ作用をもっています。

ジョサマイシンなど16員環マクロライド
では抗炎症作用は認められていないことから、
分子構造に由来する薬理メカニズムが推測されます。

14員環のマクロライドの中で、
エリスロマイシンは酸に不安定のため、
投与量を増やす必要があります。

一方で、クラリスロマイシンや
ロキシスロマイシンは酸に安定で
少量投与で継続できるため、
有効性・安全性が高く選択されることが多いです。

特にクラリスロマイシンは小児用も
あるため小児の慢性副鼻腔炎にも
よく使用されることがあります。

と、ここまでは良いことしか
書いていないのですが、
実は問題点も指摘されています。

マクロライド療法の問題点とは

抗菌薬を使えば、
必ずある問題がついてまわります。
そう、「耐性菌」の問題です。

実際に、マクロライド療法が積極的に使われる
アジア地域ではマクロライドの有効性が
低下しているという研究結果もあります。

当然の結果といえばそうなのですが、
いまいちこの話題に関しては、
触れられていない現状もあります。

その件に関しては、
六号通り診療所所長のブログにて
触れられているので興味のある方はどうぞ。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2009-03-16

ここで触れられている分子構造と薬理を
研究し、「抗菌作用のないマクロライド」
が開発されるのが望まれます。

マクロライドによる抗菌作用が必要
になる感染症が発生したときに、
「マクロライドが全然効かなくなってる!」
という状況もでてくるかもしれません。

今後の動向に注視していきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでもお役に立てば幸いです。

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コメント

  1. 3年目医師 より:

    いつも楽しく読ませてもらっています。
    先生がおっしゃる耐性はその通りで、自分の認識では現在マクロライドを抗菌効果を期待して使うケースは非結核性抗酸菌感染症の時とレジオネラ肺炎くらいです。
    自分がいる地域で肺炎球菌はクラリスロマイシンに対して94%が耐性を持っています。
    また、クラリスロマイシンには微妙に抗結核効果があるのが怖いところでそれが故に結核感染時に使うと診断の遅れと耐性化を生み患者さんの死亡率を上げます。
    エリスロマイシンの方がそういう意味では安全性が高いとも言われております。
    結核は非常に診断も治療も難しく除外することができない疾患ですのでいつもマクロライドやこの話からはそれますがキノロンの乱用には恐怖しております。

    • しゅがあ より:

      医師をなさっている先生からコメントをいただき大変嬉しく思います。
      やはりマクロライドの耐性化は問題になっているのですね。
      「結核菌に対する耐性」という視点はこれまであまり意識したことがなく大変参考になりました。
      そして、先生がおっしゃるようにクラビットをはじめとする「キノロン」の安易な多用に関しても、現場におりまして大変気になっている話題でした。
      薬剤師の立場として適正使用への貢献はなかなか難しい所はあるのですが、先生のようなお考えをもたれている医師は大変心強く思います。
      またのご指導よろしくお願い致します。