コホート研究と症例対照研究の違いをすっきりと解説してみた

臨床研究について少し学んだことがある人であれば、きっと一度は混乱したことがあると思います。

前向きコホート、後ろ向きコホート、ケースコントロール(症例対照)といった研究モデルの違い、相対危険度やらオッズ比やらの用語について。

ということで、今回は何となくモヤモヤした部分をすっきりと理解してもらえるように解説してみました。

「原因」が先か「結果」が先か

まずは「コホート研究」と「症例対照(=ケースコントロール)研究」の違いから。

ズバリ最初に

☆原因から入るのがコホート研究

☆結果から入るのが症例対照研究

です。ぜひ何度も暗唱してください笑

分かりやすく例を挙げてしまいますね。

「タバコによる肺がん」を調べたいという場合を考えてみましょう。

「原因」というのは、タバコ。

「結果」が肺がん

ですよね。

つまり、原因であるタバコを吸っている人を探して、その人たちが「肺がんになるのかな~、ならないのかな~」って追って観察していく(追跡していく)のがコホート研究です。

コホート(cohort)の語源
もともと古代ローマの歩兵隊の一単位で、300~600からなる兵隊の群の意味。
疫学では共通の因子を持った個人個人の全体という意味でこの言葉を使用されている。
コホート研究は「コホート(集団)を追跡する」という意味が含まれている。

当然、タバコを吸っている人たちだけを観察しても、タバコが肺がんの原因になっているか判断できないので、タバコを吸っていない人たちも同時に観察していきます。

それらを比較して、「タバコを吸っている人の方が、どうやら肺がんになりやすいようだ」ということが分かれば、「タバコ=肺がんの原因」ということがいえるようになるのです。

イメージ図としてはこんな感じです。

koho-to1

では、目の前に肺がんをすでに発症してしまった人たちがいたら、どんな研究ができるか?

この場合はコホート研究とは反対に、「肺がん=結果」を起こした人を集めて「この人たちはタバコを吸っているか?、もしくは吸っていた経験があるか?」を調べていきます。

つまり、「結果(実際の症例)」に着目して研究を始めるわけです。つまり、まず病人をかき集めて、次に健常人(対照=コントロール)を集めて、彼らのこれまでの人生を比較していくわけです。

で、結果として「やっぱり肺がんを起こした人は、タバコを吸ってたじゃん!」ということが分かれば、「肺がんとタバコ」の強い関連性がみえてくるのです。

イメージ図としてはこんな感じです。

shourei1

両者とも、証明することは結果的に同じなんですが「原因」と「結果」のどちらに目をつけて研究をはじめるか?という違いがあるのですね。

前向きとか、後ろ向きって何?

コホート研究と症例対照研究の違いが分かったら、次にややこしいのが「前向き」「後ろ向き」という言葉です。

英語では、プロスペクティブとかレトロスペクティブとか呼ばれることもあります。

「前向き研究」といった場合は、基本的に「コホート研究」を指します。つまり未来に向かって、観察をしていくことを指しています。

「後ろ向き研究」は、症例(結果)がまずあって、過去に向かって「原因」を探していくわけですから、症例対照研究のことを指します。

で、ここからややこしいのですが、「前向きコホート」と「後ろ向きコホート」という言葉がありますよね。

普通に考えたら、原因⇒⇒結果という順で観察していくコホート研究は言うまでもなく「前向き」なわけです。つまり、「前向きコホート」っていうのが自然です。

じゃあ、「後ろ向きコホート」ってなんなんだよ!ってなるわけです。

この違いは、ズバリ「原因(暴露)」が過去にあるのか、現在にあるのか、の違いです。

後ろ向きコホートとは?

「後ろ向きコホート」でいう「後ろ向き」というのは、単に原因や暴露が「過去」にある場合のことです。しかし、あくまで研究の方向としては、その原因(暴露)があった時点から未来に向かって(前向きに)、病気を発生をみていきます。

つまり、一旦過去を振り返るという意味で「後ろ向き」という言葉がついているだけで、コホート研究である以上、研究そのものは未来に向かって、前向きに行われていきます。

すごいややこしい名前なので、「後ろ向きコホート」という言葉は「命名ミスだ!」とか言われて嫌がられてます(笑

ただ、この状況そのものに関しては、むしろ実際には多いと思います。タバコを吸っていた経験があるとか、こんな薬を飲んでいたことがあるとかいう人たちを対象にして、何かの病気や副作用が起こるか調べたい、ということは結構多いですから。

これと区別する形で、「前向きコホート研究」というのは、いっさい過去を振り返らないわけです(笑。

データがゼロの状態から、タバコを吸う人と吸わない人を一から探して、将来的に肺がんが起こるか、起こらないか見ていくというわけです。(原因(暴露)の内容によっては、倫理的に難しい場合も多いです。毒と分かっていて、誰かに使うのは問題ありですよね。)

相対危険度とオッズ比

あと観察研究を勉強して、すっきりしないところといえば「コホート研究は相対危険度」「症例対照研究はオッズ比」という謎の呪文ですね(笑

なぜ症例対照研究ではオッズ比しか算定できないのか?という点についてモヤモヤするはずです。

その理由を知るために、まずはそれぞれの式をみてみましょう。

kansatu1

この表は、コホートでも症例対照でも同じようにつくることができます。

そして相対危険度の式は次のようになっています。

kansatu2

ここで注目してほしいのが、A+BとC+Dの部分。

コホート研究において、これらが指しているものは何でしょうか?

コホート研究では、はじめに研究の対象となる集団(コホート)を設定します。たとえばタバコを吸っている人100人、吸っていない人100人というようにです。

100人ではさすがに少ないですが、この人たちは何を代表しているのかというと母集団(たとえば日本人全体)です。

つまり、この人たちを調べた結果については、ある程度日本人全体のこととして考えてよいですね、ということなのです。

このため、コホート研究では、A / A+B=タバコを吸ったときの罹患率、C / C+D=タバコを吸わないときの罹患率 が計算できるのです。

では、症例対照研究ではどうでしょうか?

こちらでは、はじめに病人と健常人を「勝手に」研究者が選んできます。

そして、単にその人たちがタバコを吸っていたのか?吸っていなかったのか?を調べるだけであって、発症する確率とか割合(=罹患率)は計算できないわけです。

はじめに「集団」を設定していないですから、症例対照研究におけるA+BとC+Dという計算値は何の意味もありません。つまり、彼らを母集団(日本人)の代表として考えることはできません。

当然ですが、罹患率( A/(A+B)やC/(C+D) )は計算できない(というかこの値に意味がなくなってしまう)ので、相対危険度は計算できない、ということになるのです。

オッズ比

といっても、何か目安となる数値がなければ、研究結果が分かりにくくなってしまいますから「オッズ比」というものを考えたのです。

コレですね↓

ozzuhi

シンプルに考えてみると、もし仮に「タバコを吸うと肺がんになりやすくなる」ということが正しいとすると、上の表でいう「A(タバコを吸って肺がんになる人)」と「D(タバコを吸わずに健康な人)」の数字が大きくなります。

逆に「B(タバコを吸っても肺がんにならない人)」と「C(タバコを吸ってないのに肺がんになる人)」の数字は低くなるはずです。(あくまでタバコと肺がんに明確な因果関係がある場合です!)

つまり、オッズ比の式をみると、タバコが肺がんを起こすのであればオッズ比がどんどん大きくなっていくのが分かります。

よって、症例対照研究でもオッズ比を計算することで、タバコによってどのくらい肺がんになるリスクが増えるのか?というのが数値として算出できるのです。

ちなみにオッズ比は、コホート研究でも計算できますので勘違いのないように!

複数の研究方法があるワケ

いかがでしょうか?

ここまでみてきて、なんとなくコホート研究っていうのはコストも時間もかかりそうだな~ってなんとなく感じるでしょうか。

「今現在」から対象者や観察員やらすべてを準備して、ず~っと追跡していくわけですから、当然大変な研究になりますよね。でも、その分だけ信頼のある研究結果が得られるわけです。

その一方で、症例対照研究などは「過去のデータ」という裏ワザを使って、効率的に短期間でたくさんのデータを得られるわけです。

ただ、やっぱりその分だけ信頼性が落ちたり、バイアス(偏り)が大きくなったりもします。例えば、喫煙経験というのは、正確に記録している人は少ないですから、本人の記憶によって、実際の本数よりも少なめに記憶していたり、逆に実際よりも話を盛って申告することがあります。

また、過去のデータを研究者が自分の判断で選んでくるわけですから、そこに偏り(バイアス)が生まれてしまいます。

これは、意識してやったら当然「不正行為」ですが、本人が意識していなくても程度の差はあれ必ず生じるとされています。

一方で、すごく希少な病気なんかは、症例そのものが少ないですから、発症するのを待つ(観察する)というコホート研究はかなり難しいですよね。そういうときには、症例対照研究を選んだりするわけです。

こういったところも含めて、設定した研究テーマや調査内容に対して、どの方法で調査していくのかを考えていく必要があります。

やっぱり科学には「費用」「時間」「労力」という側面が、実際問題としてありますから、それらのバランスをみて決めていくとになります。

また、何かの調査結果や研究データをみる際にも、それらがどんな方法で行われたのか?ということを必ず確認しておかなくてはいけません。

そして、なぜその研究方法が選ばれたのか?という「背景」についても考えられるようになると、さらに一歩進んだ考察や隠れた情報をそこに見ることができるはずです。

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コメント

  1. ポニョ より:

    すごくすっきりしました。有難うございました。
    で、その中で「後ろ向きコホート」の説明がありましたが、こちらのイメージ図なんかもあれば助かるんですが・・・。他もイメージ図がかなり役立ったものですから。。
    もし可能であれば作成いただきたいものです。
    よろしくお願いします。

  2. 匿名 より:

    わかりやすい!
    解説ありがとうございました。

  3. 村上 より:

    すごくわかりやすい解説で助かりました。ありがとうございます。
    事後報告ですいません。リンクさせていただきました。

    • しゅがあ より:

      ご報告ありがとうございます!
      お役立ててよかったです^^

  4. 匿名 より:

    とても分かりやすく、学びになりました。
    ありがとうございました

  5. 匿名 より:

    コホート研究というのの概念を理解したら、普通に思うのは
    「一つの答えになるのがそもそもおかしい」
    という点でしょうね。
    正直、コホート研究が精確か?となると、この内容で精確と言い切るのは確実にアホですわなw
    そもそもが正確な研究というのが無理だしw

    限界を理解した上で参考の一つにしかならない。と認識しないとねw

  6. 統計初心者 より:

    大変分かりやすい解説ありがとうございました。
    平易な言葉で書いてくださっているところでも、すんなり入ってきました。
    ありがとうございました。
    また、何かあればご相談させてください。

  7. 匿名 より:

    すごく噛み砕いて説明してくださっているのでとても分かりやすかったです!!
    ありがとうございました。