風邪×妊婦×インフルエンザ
★まずは予防から★
妊娠中には、かぜ症候群およびインフルエンザ感染の予防を徹底すべきです。
「かかる前に対処する」は非常に大切な考え方です。
「水でのうがい」と「マスク着用」はかぜの感染を減少させることが、信頼性の高い試験(無作為化比較試験)でもわかっていますので確実に行ってください。
★ヨード液でのうがいはちょっとまった!
妊娠中の女性の中には、薬を服用するのは良くないという思いこみで、ヨード含嗽薬を用いてうがいを毎日行っていることがあります。
「ヨード(ヨウ素)」は、原発事故のニュースなどで有名になったと思います。もともと体内で(特に甲状腺で)利用されている物質ですが、ヨードは胎盤を容易に通過し、胎児が甲状腺中毒になることがあるため注意が必要です。
◆それでも症状がでてしまったら。。。?◆
1.熱を下げたいんですが。。。
基本的には「アセトアミノフェン」を使用します。
アセトアミノフェンは、胎盤を通過し、胎児にも移行しますが、通常量の短期で使用すれば「安全」であることが知られています。
最近、妊娠後期ですると、胎児の動脈管収縮(胎児の酸素呼吸がうまくいかなくなる状態)の危険が高まるという報告がありました。
しかしながら、圧倒的な使用経験のある薬なので、最も危険は少ない薬と考えられますので、必要な場合は使用することも可能です。
☆バファリンはどうなんですか?
「バファリン」という商品には種類がいくつかありますので注意が必要です。
最もメジャーなものは、アスピリン(アセチルサリチル酸)、イブプロフェンという成分が主体になっています。
これらは、アセトアミノフェンの次に妊娠中の女性に選択される比較的安全な成分です。
しかし、妊娠後期、つまり、28 週以降は分娩時及び新生児への影響が起こることがあるので、安易には使用しないでください。
イブプロフェンやアセトアミノフェン、アスピリン以外の解熱鎮痛薬は、妊娠前期に 1 週間以上連用すると流産のリスクを増加させる可能性のあることが報告されています。
また、妊娠後期では、アスピリンやイブプロフェンでも、分娩時及び新生児への影響が起こる可能性が知られているので、必要最小限の使用にとどめます。
2.抗生剤(抗生物質)をもらって早く治したいんだけど。。。
「風邪」に対して、一般の方は誤解をしていることがとても多いです。
風邪の治療に対して「抗生剤」は本来必要のないものです。
なぜかというと、風邪の原因の多くはウイルスであり、細菌によるものではないからです。
※ウイルスに抗生剤は効きません!
では、なぜ抗生剤が処方されるのかというと、ひとつには2次感染予防のためです。風邪を引いて抵抗力が下がっているところに、新たな細菌に感染して肺炎などを起こさないようにするためです。
ですから、風邪症状に対して抗生剤は不可欠なものではありませんが、もし必要があればペニシリン系やセフェム系の抗生物質を使用することもあります。
3.インフルエンザに罹ってしまったら。。。
まずは予防が基本です。
インフエンザワクチンは安全性の高い「不活化ワクチン(ウイルスが死んだ状態になっているもの)」なので、妊娠前、妊娠中にも摂取したほうがいいでしょう。
もし、それでも症状がでてしまったら、早い段階(48時間以内)に「タミフル」の内服や「リレンザ」の吸入を行って対処します。これらの薬は胎児への影響は少なく、インフルエンザを放置して悪化させることの方が胎児への影響が大きいことが分かっています。
4.咳や鼻水、下痢などの”症状”に対しては?
妊娠中だからといって、薬が全く使えないというわけではありません。
むしろ、胎児への影響がはっきりと分かっているものの方が少ないのです。
なかには、妊娠前や妊娠中に薬を使用してしまい中絶まで真剣に考えたという方も少なくありません。
もちろん、症状が軽度であれば使用しないのがベストです。
ただ、強い症状により母体に大きな負担やストレスになるのであれば、積極的に薬を使った方がよい場合もあります。
簡単ではありますが、妊婦にも使用できる薬についてまとめておきます。
・解熱鎮痛消炎薬
アセトアミノフェン・鎮咳薬(咳止め)
デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、ジメモルファンリン酸塩、ベンプロペリンリン酸塩、ペントキシベリンクエン酸・去痰薬
ブロムヘキシン塩酸塩、アンブロキソール塩酸塩・抗ヒスタミン薬(花粉症・アレルギーの薬)
第一世代:クロルフェニラミンマレイン酸塩、クレマスチンフマル酸塩、ヒドロキシジン
第二世代:ロラタジン、セチリジン塩酸塩、フェキソフェナジン塩酸塩など・抗アレルギー薬
クロモグリク酸ナトリウム・気管支拡張薬(喘息の薬)
サルブタモール硫酸塩、テルブタリン硫酸塩、クレンブテロール塩酸塩、テオフィリン、イソプレナリン塩酸塩・止瀉薬、整腸薬(下痢止め)
ロペラミド塩酸塩、乳酸菌・抗菌薬
ペニシリン系、セフェム系、マクロライド系・漢方薬
香蘇散、参蘇飲、麦門冬湯、小柴胡湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯、小青竜湯(麻黄含有、長期不可)、葛根湯(麻黄含有、長期不可)
酒見智子ら : 疾患を有する妊娠中の女性・授乳婦への薬物治療 かぜ症候群・インフルエンザ患者, 月刊薬事, 48, 211-215, 2006
以上、「妊婦と薬」というテーマで説明しました。
本当のところ、考え方や使用基準は多くあり、絶対的なものはありません。
最終的には個人の判断で薬は使っていくしかないのです。
薬には「100%」というものは存在しません。
リスク(危険)とベネフィット(利益)を考えてどちらを選択するのか?によります。
ただ、意図しない薬の使用により、後々の心配や後悔につながってほしくないので、妊娠を希望される方や妊婦さんには特に慎重に対応してほしいと思います。