授乳中は薬を飲んではいけないのか?

興味深いトピックあったので、簡単に考えをまとめておきます。

添付文書によく書かれているこんな言葉があります。

「授乳を避けさせることが望ましい」

そりゃあ避けさせることが望ましいでしょう。しかし、この記載は「授乳OK」という意味にとらえてもよい、ということもどこかでみた気がします。

知りたいのは実際にどうなの?というところであり、現場においてはどんなときでも「何らかのアクション」を起こさなくてはいけないのです。

飲ませるのか?

飲ませないのか?

こういう時には、やはり根本的な所から考えていくのがよいと思います。

そもそも薬は、本当に必要なのかい?というところ。

この視点が見落とされる場合が多いと思うのです。

特によくあるのが「抗生剤」。

今使われている抗生剤で、本当に必要である事例はどのくらいあるのか、非常に疑問なところです。これはまた別の問題ではありますが^^;

また、咳止めや鎮痛薬などの対症療法。これも本当に薬が必要なレベルなのだろうか?

「この薬って赤ちゃんには大丈夫なんだろうか・・・?すごく心配だ・・・」

なーんて気を揉んでいる前に、そもそも大した咳ではないんじゃない?!我慢できるレベルじゃない?ということが、まぁあるのではないでしょうかと。

まずは、問題の糸口はそこからだと思うのです。

そして、それでもやはり薬を使わなければ母体が危険だ!

臨床的にそう判断した時にはじめて、服用してよいか?、を考えればよいのです。

多くの「授乳と服薬」の問題は、この時点で解決するものも多いのではないでしょうか。

目次

母乳移行のメカニズム

服用の必要性が高い場合というのも確かにあるはずです。

ということで、薬学的な視点も入れておきましょう。

薬の母乳移行の経路は2種類あります。受動拡散と能動拡散(担体輸送)です。

受動拡散において移行しやすい条件

(1)脂溶性、(2)分子量が小さい、(3)蛋白結合率が小さい、(4)非イオン型、(5)弱塩基性 など。

⇒データが全くない場合、ある程度予想する手助けになる視点

能動拡散

乳腺上皮に薬剤輸送機能を持つ膜蛋白やトランスポーターの発現により、受動拡散で予測される以上に母乳移行する薬剤もある。

能動拡散については、予想が難しいため個別の評価が必要になる。

母乳移行の指標

Milk Plasma比 (M/P=母乳中濃度/母体血漿中濃度)を使う。

M/P比は正確に出すことが困難であり、乳児への薬物の影響の正しい議論には、薬物毒性、投与量と投与期間、哺乳量、乳児の年齢なども考慮にいれなければならない。

授乳の考え方の基本

薬は母乳に必ずと言ってよいほど移行する。しかし、多くの薬は授乳を中止する必要がなく、中止すべき薬として評価されているのはごく一部である。

米国小児科学会の見解

実際に授乳中に注意を要する薬は、(1)抗癌剤、(2)放射性物質、(3)フェノバルビタール、(4)エトスクシミド、(5)炭酸リチウム、(6)ヨード剤が挙げられている。

理由は、乳児の血中濃度が治療域に達する可能性があるから。

参考になるサイト

国立成育医療研究センターが「授乳中、安全に使用できると思われる薬と授乳中の治療には適さないと判断される薬」の一覧表を公開している。

国立成育医療研究センターのHP

授乳のメリットは?

乳児側のメリット

(1)感染症リスク低下

(2)アレルギー性疾患、自己免疫疾患リスク低下

(3)動脈硬化リスク低下

(4)認知能力への影響

母親のメリット

(1)産後の早期子宮回復

(2)産後の体重減少

(3)卵巣がん・乳がんリスク低下

(4)2型糖尿病リスク低下

(5)閉経後の大腿骨頸部骨折減少

(6)母子の精神的安定

このように、授乳には乳児・母親にとって様々な効果をもたらすといった報告も多数存在しています。

これらの恩恵を、服薬によって遮断してしまうのはもったいないという主張もあるようです。

僕の考え

まず、はじめに行うべきは、服薬の「必要性の追求」であるという意見は変わりません。

これはなにも授乳婦だけではなく、すべての患者において、常に徹底的に考えられるべきことだと思います。なぜなら、薬を飲まなければ、リスクはゼロなのだから。

そして、本当に薬を飲む必要があるという場合には、最終的に誰に判断をさせるか?これが非常に難しい。

医師なのか?患者であるべきなのか?もちろん、患者自身がリスクを理解できるようにしっかりと説明した上ではあるけれど。

上記サイトの「安全な薬」という一覧にある薬であれば、使用実績もあるだろうし、リスクは相当に低いものだと思います。

また、冷静に起こりうる重篤な危険といえば、薬剤アレルギーくらいなものだと思います。アレルギーは基本的に予想できないものであるから、判断材料にはなりえません。

米国小児学会による注意が「乳児の血中濃度が治療域に達する可能性がある」というからも、移行そのものというよりかは、「移行する薬物量」が問題であることだと思います。

つまり、極端に乳汁に濃縮されるものであれば危険だ、ということになります。

もしリスクを少しでも気にするのであれば、半減期などを考慮して服用期間中は授乳中断というのもアリだとは思います。

リスクが確定されない以上、こういう問題に答えはありません。でも、多くの視点に立っておくことは大事ですね。

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