今回は、血液検査の結果などでよく目にする「GFR(糸球体濾過量)」について説明していきます。
GFRは、「腎臓の機能」を数値化したものですが、服用する薬の量を調整するためにも使われています。
目次
GFRはなぜ必要か?
そもそも、なぜGFRが使われるかというと、個々の患者の腎機能を考慮して、「最適な薬の投与量」を決めるためです。
薬の排泄過程には、大きく分けて「肝代謝」と「腎排泄」があります。
薬物の肝代謝には、薬物代謝酵素の遺伝子多型などが関係していて、最近少しずつ臨床化もされているところです。
しかし、肝機能の良し悪しで薬の投与量を変えるというのは、まだまだ難しいというのが現状です。
一方で、腎機能と薬の関係は比較的シンプルであり、すでに臨床にも応用されています。実際に、腎機能の程度により投与量を変えなければならない薬が多くあります。
例えば、ガスター(H2ブロッカー:胃酸抑制薬)では腎機能によって、飲む量が決められています。
腎機能とは?
ところで、「腎機能」はどういったものでしょうか?
簡単にいうと、「腎臓がどのくらいのスピードで血液をきれいにできるか?」ということです。
腎機能が正常であれば、体内に入ってきた薬は、しっかりと尿中に排泄されるため通常の量で問題ありません。
もし、腎機能がおちている場合、投与した薬がなかなか排泄されずに、体に溜まってしまいます。つまり、健常人よりも少なめに投与しないと効果が強くでたり、時には副作用がでてしまいます。
じゃあ、腎機能をなにかの「数値」で表わすことはできないか?と考えたときに登場したのがGFR(糸球体濾過量)なのです。
GFRとは
GFRは、日本語で「糸球体濾過量(しきゅうたい-ろかりょう)」といいます。では、さっそくその意味から考えていきましょう!
濾過ってどういう意味?
「糸球体」は、腎臓の構造の一部で、片方の腎臓に約100万個存在しています。ここで、血液を「濾過」するわけです。
「濾過」という言葉ですが、あなたははどういうものをイメージしますか?
私は、漏斗の上に紙を置いて、上から濾過したい溶液を流して・・・・
↑こんなイメージをもっていたので、正直、「糸球体濾過」という言葉の意味が初めはピンときませんでした。
きれいな濾液は紙を通過して、下のフラスコに溜まっていくよな・・・。ということは、腎臓も同じで、きれいな血液(水分)が濾過されて尿になる??
このように考えていたのですが、実際にはこのイメージとちょっと違います。
腎臓での「濾過」とは、「いらないものを血液から尿(糸球体内)に捨てる」ことを指します。薬物や栄養素が、血管にあいた穴を通って、血液と一緒に出ていくイメージです。
そのときには、必要か不要かは関係なくいろんな成分が尿中に出ていってしまいます。
そして、必要なもの(水分や糖質)は、後から尿細管で回収していきます。これを「再吸収」といいます。
はじめに濾過された尿(原尿)は、1日で約150リットル生成されるといわれています。
そのうち99%以上(水分、糖分など体に必要なもの)は再吸収されて、最終的に1日:1~1.5Lの尿に濃縮して不要なものを排泄するわけです。
GFR(糸球体濾過量)を計算する
では、本題にもどります。
尿がつくられる最初の段階、つまり「単位時間に糸球体が濾過できる血液量」が「糸球体濾過量」です。(単位時間とは1分、1秒などを指します。)
しかし、この糸球体濾過量を直接測定することは非常に難しいので、何か他に測る方法はないか?と考えたわけですね。
そこで見つけられたのが、「イヌリン」という物質です。
構造は、フルクトース(果糖)とグルコース(ブドウ糖)からなる多糖類です。
腎機能を測定する際に使われる物質の条件は、次のものが挙げられます。
- 血漿蛋白と結合しない
- 糸球体基底膜を自由に透過する
- 尿細管で再吸収・排泄されない
- 生物学的活性がない
- 体内で代謝されない
これらの条件を「イヌリン」はすべて満たしているため、GFRを測定するのに最適な物質とされています。
このことから、「GFR=イヌリンクリアランス」と国際的にも認められています。
では、簡単にその求め方を説明します。
イヌリンクリアランスの求め方
まず、イヌリンを血管内に持続的に静注し、その間の尿を採取してイヌリン濃度を求めます。
尿量をV(dL/min)、尿中のイヌリン濃度をU(mg/dL)、イヌリンの血中濃度をP(mg/dL)とします。
1分間で排泄されたイヌリン量は、
V(dL/min)×U(mg/dL)=X(mg/min)
となります。
つまりクリアランスはというと、
X(mg/min)÷ P(mg/dL)=CLin(イヌリンクリアランス)です。
これがつまり、実測GFRとなります。
あれ、クリアランスの計算が分からないぞ??っていう方は
このようにイヌリンクリアランスを測定されますが、実はこれを求めるのもかなり手間がかかります。測定するには、ざっと半日かかります。
また、採取した尿を使うために、尿量に誤差があると数値もばらついてしまうことがあります。
推定GFRで代用!
イヌリンクリアランスを測定するのも難しい。。。
では、もっと簡単にGFRを推測する方法はないのか?と考えた末、「eGFR」が使われるようになりました。
“e”はestimatedを表わしていて「推定」とか「推算」という意味です。推算したGFRという意味でeGFRと表記します。
これを計算する推算式が下式です。
<日本人向けGFR推算式>
eGFR(mL/min/1.73m2)=194×Cr-1.094×年齢-0.287
女性の場合は 0.739 をかける
「Cr」は血清クレアチニン値で、Crはマイナス乗(割り算)なので、Crが高くなるほどeGFRは低くなります。
イヌリンは外部から注射して測定しましたが、クレアチニンはもともと体内にある物質なので、血液採取するだけで計算することができます!
また、式より、年齢も高いほど必然的にeGFRは低くなります。
この式で注意しなければならないのは、【1.73m2】という所です!
デュ・ボアの式
この推算式は、1.73m2の体表面積の人を想定してつくられた式なのです。これは体重63kg、身長170cmの人の体表面積を指します。
この体格からずれる場合は、個々の体表面積で補正する必要があります。それには「デュ・ボアの式」を使用します。
BSA(m2)=0.007184 × 体重(kg)0.425 × 身長(cm)0.725
eGFR × BSA(m2)÷ 1.73(m2)とすることで、個々の体格に合わせた推測したGFRを求めることができます。
ちなみに・・・
GFRは20歳で約100mL/minとされ、以降1年ごとに0.5~1ずつ低下していくといわれています。
では、ちょっと長くなりましたので、次回の記事でeGFRの使い方やクレアチニンクリアランスとの違いなど説明します。
以上、最後までお読みいただきありがとうございました!
コメント
腎臓癌の手術で片腎になりました。この場合、eGFR
の値は悪くなるのですか?小生、クレアチニン値1.28で73歳。
eGFRが43となります。
島次郎さんへ
ご訪問、コメントをありがとうございます。
私は泌尿器専門医ではないので、あくまで一意見として捉えていただければ幸いです。
まず、一方の腎臓がなくなったことで、腎機能の低下は起こりうるようです。単純に半減するというわけではなく、30%程度の低下という報告もあるようです。
eGFRは体全体の排泄能を示すものです。よって、理論的には2個あった腎臓が1個になることによって、ある程度低下することは予想されます。
eGFR43、ご年齢も考慮すると、腎機能を維持していくことは非常に重要だと考えます。
なくなった腎臓は再生することはありませんから、いかに残存する腎機能を維持するか?という視点で治療されていくことと思います。
治療法の詳細は記載しませんが、生活習慣・薬剤性の腎負担などは配慮していただく必要があると思います。
以上、粗末な回答ではございますが、多少の参考になれば幸いです。
健康診断でeGFR79.2でB判定でした。毎日睡眠導入剤を飲んでいますが、関係ありますか?
栗下様
eGFR79.2だけの数値をみますと、それほど大きな腎機能の低下はないと思います。
具体的な薬剤名、併用されているかどうかわかりませんが、現状においては健常者と比較して薬剤量の調整が必要になるレベルではないと思います。
egfrが54.8と健康診断で初めて指摘され不安です
食事生活習慣などご指導お願いします
谷内さま
はじめまして。
ご要望の件ですが、適切な指導は、谷口さまの背景情報や生活状況、既往歴、服薬状況などを伺わないと本来できないものと考えております。
一般的な腎機能障害にかかわる留意点や生活のなかで注意することについては下記のようなサイトがございますので、参考にしていだけると幸いです。
→http://www.kyowa-kirin.co.jp/ckd/prevention/pre3.html
78歳です否定型抗酸菌症のため抗生物質飲んでいます。egfr74です。またalp367です。疲れやすく大変です。よろしくおねがいいたします