<Question!>
突然ですが、Pkaについて質問したいことありコメントさせて頂きます。授乳と薬についてPkaを勉強しているのですが、いまひとつ解りません。Pkaが7.4以下だと移行が少ないように書いてあるものもあるのですが、酸性物質か塩基性物質かで結果は変わってくると思います。血液PH7.4のときPKaがそれ以下であれば酸性物質はイオン型が多くなり移行しづらいですが、塩基性物質であれば分子型が多くなり逆に移行しやすいと思われます。Pkaをみただけでは判断できないのでしょうか?また酸性か塩基性かはどのように判別できるのでしょうか?
読者の方から、
上のような質問をいただきました。
では、早速整理しながら解説していきます!
ポイントは、
・母乳と血液のpHの関係について
・pKaの考え方について
・そもそも酸性と塩基性って?
質問の内容から、この3点に注目して
説明していきます。
まず「母乳と血液のpH」です。
通常、健康な人の血液のpHは7.4付近
で推移していると言われています。
それが何らかの疾患によって
アシドーシスやアルカローシスなど
pHが変動してしまうこともあります。
ヒトの場合、血液 pH が 7.0 以下
になると昏睡に陥り、7.7 以上になると
痙攣を起こし、いずれも心臓が停止してしまいます。
それぐらいヒトの血液は厳密に
pHが管理されているんですね。
そして、このpH7.4の血液中(≒水中)
に「薬物」が溶解するわけです。
血流で薬物は運ばれ、
pHが約6.8の母乳に移行
することで、胎児に移行します。
「移行する」というのは、
「細胞膜を通過する」
「脂肪滴に溶解する」
ということがひとつ条件になります。
つまり非イオン型(脂溶性)です。
そして、血液と母乳のpHの「差」
がこれまた重要になります。
後ほど絡めて説明します。
次に、pKaの考え方を復習します。
pKaを「酸性物質だけ」の概念と
捉えてはいけません。
そもそも「酸性」と「塩基性」は
表裏一体なのです。
例えば酢酸(CH3COOH)は
H+を放出するとCH3COO-になり、
これは塩基で「共役塩基」っていいます。
逆にNH3を考えると、H+を受け取って
NH4+になります。これはNH3の共役酸
っていいます。
で、本題です。
酸性物質のpKaはそのまま
イメージできると思いますが、
塩基性物質のpKaって言われると?。。。
塩基性物質のpKaは、
その共役酸の酸性度を表わしています。
この共役酸はH+を受け取っているので
イオン型ですね。
質問内にあった、
「pKaだけで酸性物質か塩基性物質か判断する」
というのはできないと思います。
pKaは、あくまである物質を「酸」として
みなしたときの相対的な酸性度の
強さであると考えるべきです。
塩基性の強さを表すのはpKbという
指標がありますが、その共役酸の強さ
としてpKaを表記している場合が多くあります。
薬物の構造式が分かれば、
H+を受け取った状態がイオン型か
非イオン型か考えることができます。
CH3COOHは非イオン型、
NH4+はイオン型ですよね。
その構造式情報とpKaが与えられれば、
pH7.4でイオン型なのか非イオン型
なのかをイメージできると思います。
そもそもpKaって「水」に溶かした時
という条件のもと、さらに希釈溶液の場合
を想定したものです。
pKaは温度や溶媒によって
全く違う値を示すことからも、
「酸性」「塩基性」の絶対的な指標とはなりません。
「水溶液中」であるpHと比較した
時の「解離している程度」を考えるため
のものというイメージでしょうか。
なので、薬物によって「酸」として
働くときにイオン型をしているのか、
非イオン型をしているのかは分からないので、
そこは注意しておく必要がありますね。
一応、薬学で呼ばれる酸性薬物は
構造式上、H+を放出できるもの、
塩基性薬物はH+を受容できるものです!
いろいろ勉強していて
すごい分かりやすいページを
見つけたのでリンクします^^
⇒リンク
この中にある安息香酸と
アニリンのpKaがすごくイメージしやすい
と思うので参考にしてみてください。
最後に。。。
pH6.8の母乳は弱酸性、
pH7.4の血液は弱塩基性
ということから考えられることについてです。
この場合、塩基性薬物
(H+を受け取って共役酸となるもの)
は血液中では非イオン型が多く、
母乳中ではイオン型が多くなります。
血液中の非イオン型薬物が
濃度勾配による受動拡散により
母乳中に移行します。
母乳に移行した塩基性薬物は
pH6.8(弱酸性環境下)では、
イオン型が多くなります。
つまり、薬物濃度が
母乳中>血液中となり、
胎児に移行しやすいと考えることができます。
質問中にあった、
「pKaが7.4以下だと移行が少ないように
書いてあるものもある」
というのは単純な酸性薬物
を想定しているものと考えられます。
「共役酸のpKaが7.4以下である
弱塩基性薬物」であれば、
それとは逆に移行は多くなりますよね。
以上!
ここまで、いろいろと考えたんですが、
ほとんどの薬物が母乳移行する
という事実を忘れてはいけません。
このpKaやpHという微妙な話は、
あくまで要因の一つであって、
半減期やら能動輸送やら様々な
要因によって母乳移行は決定されます。
木をみて森を見ずだと本質を
見失うことがありますから
注意が必要だなあと思ったりもします。
では、長くなりました。
分かりにくかったかもしれませんが、
少しでも参考になれば幸いです。では!
コメント
さっそく丁寧にご教示頂きまして、たいへんありがとうございます。いま、一読しただけなので、理解できたかと言われるとできていないのですが、教えて頂いたリンクと合わせて勉強します。
構造式を見て判断できるようになれたらよいのですが・・・。
しかし、木をみて森をみず・・・その通りだと思いました。少しPKaに拘りすぎていたので、いろいろな要素から授乳と薬を考えていけるようにしようと思い直しました。
今回はたいへんありがとうございました。これからも勉強させて頂きます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。
>すずきさん
再度コメントをいただきありがとうございます!
酸と塩基について復習してみたんですが、結構奥が深いですね。。。
構造式をみる基本は官能基(-OH、-COOH、-NH3など)や骨格(ピリジン、ピロールなど)に注目することです。
あとは電子の動きをみて、酸・塩基性を予想することになります。
ただ薬物の構造は複雑なものが多いので、付け焼き刃の知識ではなかなか予想が難しいものもあるかと思います^^;
今回のテーマは理論上のものなので、実際の身体の中ではもっといろいろなファクターが絡んでいます。
拙い説明で申し訳ありません!ご質問ありがとうございました^^