今回は、ネクファマメンバーの猫好きさんがオリジナル記事を書いてくれたのでご紹介します^^
テーマは「漢方薬」です。
漢方は長く飲まないと効かない、というイメージを持っている方もいるかもしれません。
しかし、もともと漢方薬は寒傷(感染による急性疾患)に使われていたように、目の前で苦しんでいる患者を一刻も早くよい方向へ転機させるために用いられてきました。
記事で紹介されている「芍薬甘草湯」は10分で効果がでるともいわれるように「即効性」のある漢方薬として知られています。
また、漢方薬は生薬の組み合わせにより、まったく異なる効果を期待できるものがあったりと勉強するとすごく深いことがわかります。
それでは、猫好きさんの記事をどうぞ~。
目次
薬学生による漢方の紹介記事
はじめまして、とある薬学生の猫好きといいます。
本当に猫が好きすぎて、こんなニックネームにしてしまいました。
みなさんは、処方解析学という学問があることをご存じですか。
処方解析学というのは、みなさんが実際に医療機関や医院でもらう紙切れである処方箋から、どのような意図で医師が処方したのかを薬剤師さんが考えていることを理論立てて、考えてみようという科目です。
私の大学では、処方解析学が科目として存在していることから、このテーマを今回選びました。できれば、何回かに分けて連載していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
お年寄りや一般の方、薬学生の方なら知っているかもしれませんが、漢方処方についての詳しい知識はわかっているよという方、そうでない方でも理解してもらえるように、できるだけわかりやすく説明できるように頑張ります。
マラソン好きの症例
岡山マラソンで選手として走ることになったAさんは、走っている最中に筋肉の腫れを取りたいことから、前日に、ある薬局に来局した。
Aさんはマラソンに出るぐらい、かなり元気な方。
「明日走っているときに、筋肉が攣ったらいやだなと思ってね。」
薬剤師が考えること:走っているときに攣る→こむら返りが起こっているのか?
患者は、実証であり、舌診の結果も、正常な舌であった。
問診では、今まで大病をしたこともなく、至って元気であり、多少の汗っかきであるものの特に問題になることもなかった。
※舌診と、証について
急に舌診とか証とか出てきてびっくりしたと思うが、証というのは、本来の体の姿が、平である場合、実証というのは、平から、かなり多めにはみ出てしまった状態。体がかなり興奮気味であると考えればよい。
逆もしかり、虚証というのは、平から、かなり少なくなっている状態。体が、引きこもっていると考えるとわかりやすい。
舌診は、舌の形、色、そして舌の表面にある苔、そして裏の血管が怒張していないかどうかを、診ることを意味している。
実際に買っていったものは、芍薬甘草湯のゼリータイプだった。
各漢方についての解説
芍薬甘草湯は、筋肉に適応があるとされていて、こむら返りや、子宮の腫れに使われる。
この芍薬甘草湯に大棗と生姜をブレンドしたものが、桂枝湯であり、これが生薬の基本となる。
桂枝湯を基本として、麻黄湯、葛根湯が生成される。
麻黄湯:インフルエンザの治療に用いられ、症状として筋肉痛や関節痛があるのを改善するために使用される。
※細辛・五味子・半夏・乾姜をブレンドしたものは、小青竜湯である。
水様の鼻水が止まらない場合や、アレルギー性鼻炎における鼻水において効き目がよく、効果がシャープである。
葛根湯:風邪の初期症状に使われるが、発汗させ体を温めることにより、病原菌を自らの体温で、駆逐することで、治癒力を向上させることが目的で使われる。(麻黄・葛根がブレンドされている。)
次に、地黄が使われているものについて話す。
地黄、腎臓と連想ゲームを始めてしまいそうですが、ここからは、腎臓の働きを高めて、浮腫をとったり、血流の流れを整えるなどを行う漢方処方をみていきたい。
基本となるのは、六味地黄丸である、老化から来る症状として、イライラ(男女問わず、更年期障害みたいな…。)などを鎮める作用がある。
そこに、附子・桂皮をブランドしたものが、八味地黄丸である。
体を温めることにより、血行が改善していくことにより、しびれの改善にも効果がある。
そして、牛膝、車前子をブレンドしたものが、牛車腎気丸である。
腎臓の働きを向上させ、下肢のむくみ・体を温めることもできるので、しびれを改善する。だけではなく、乳癌で使用されるパクリタキセルに併用すると、8割効くという報告がある。
人参湯においては、補気剤として使われているが、体を温めて、腸の蠕動運動を活性化して、便秘の改善を行うことができる。この処方が基本となり、ほかの処方が出来上がっていることも考えられる。
人参湯に山椒・膠飴(こうい)をブレンドしたものが、大建中湯である。
膠飴が入っていることから、腸管の蠕動運動を促進することで、腸閉塞(イレウス)の発生を予防することができる。術後すぐに処方される。
白朮・大棗・茯苓をブレンドしたものは、四君子湯。陳皮・半夏をブレンドしたものは、六君子湯である。
腸管の疾患である潰瘍性大腸炎において使用されているのは、柴苓湯である。利水作用から、体内に溜まった多くの水を排泄することを目的にする。
しかし、あくまで余分な水しか排泄せず、ある一定レベルになれば自然と止めることが可能である。
それでは、利水作用と利尿作用のどこが違うのか。柴苓湯とループ利尿薬を比較すると、利尿薬はとにかく徹底して尿を出させてしまう。必要な体内の水分まで出してしまう。
逆に、利水作用を持つ柴苓湯では、必要最小限の水はちゃんと残してくれる。
人参剤に黄耆を入れることで、体を温めて元気づけ、体力をつけさせることが目的で使われる。(補中益気湯には黄耆が含まれる)
十全大補湯は、肉体的・精神的に疲れている人に対して使われている。
石膏剤は、体をさます生薬である。肺の熱や口渇に効果を出す。
防風通聖散である。体をとことん冷やすので、お腹が冷えてしまうことがあるので、冷え症である女性は注意することが必要である。(体格がよく太っている人に適応がある。)
それでは、いったんここで切ります。
このように、症状によって、漢方は処方が異なり、それによって、適応処方が変わってくることをきちんと認識しておきましょう。
管理人より
猫好きさんありがとうございました^^
桂枝湯については、私も以前にご紹介したことがあったのでご興味があればどうぞ!
漢方を「基本」の処方と「発展」の処方に分けて考えるのはおもしろいですし、つながって覚えられるのでよかったなと思います。
今回は、各漢方薬の大まかなイメージとつながりをご紹介いただいたので、もう少し各処方についての「証」を深めていくと楽しいと思います。
また、よろしくお願いします^^
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コメント
こんにちは、精神医療についてよく書き込ませていただいている海部麿です。漢方薬について、長年もやもやしたものを抱いているのでこちらにお邪魔します。
私は若い頃、中国に住んでいました。中国では漢方が今でも盛んで、漢方医の地位は西洋医学の医者と同等です。漢方専門の大学病院もあり、私も受診したことがあります。
私が帰国した頃(1994年頃)、母はC型肝炎で療養中でした。国立病院の「肝臓の権威」と呼ばれる有名な先生にかかっていました。
ある日、私は母の言葉に驚きました。「肝炎の治療のために小柴胡湯を飲んでいる」と言うのです。数ヶ月飲み続けていました。
小柴胡湯は、中国では風邪薬で急性期のみ服用します。だから、まるで抗生物質を長期服用しているような印象を持ちました。
しかし、実績のある先生が処方していること、当時は漢方薬には副作用がないという考え方が一般的だったことから、深く考えることをしませんでした。
やがて母は間質性肺炎になりました。「病院の待合室で空咳をする人を何人も見かけた」と言っていましたから、母以外の人も同じ病気にかかったのだと思います。「副作用ではないですか?」と指摘した母に、先生は腹を立てたそうです。
母は、肝炎→肝硬変→肝癌と進行し、更に間質性肺炎にも苦しめられながら亡くなりました。
すでに述べました通り、中国では漢方が盛んで、各省に専門の大学もあり研究が進んでいます。漢方に「ガチ」で取り組んでいます。
一方日本では、西洋医学が一般的で、漢方は新しい領域です。
私から質問があります。
①漢方薬にも副作用があることを、薬剤師さんは認識していますか?
②間質性肺炎発症の危険を犯して、小柴胡湯を肝炎治療に使用することは妥当だと思いますか?
③これから漢方の処方が広く行われる可能性がありますが、薬剤師さんとして対応する自信はありますか?
よろしくお願いします。
>海部麿さん
たいへん興味深いお話ありがとうございます。
中国での漢方の位置づけについて、大変参考になりました。
少し注意したいのが、「漢方」というのは元々日本で育てられた独自の医療であり、中国の「漢方」に相当するのは「中医学」と呼んで区別するという認識です。
使われる生薬は共通するものもありますが「処方」はそれぞれ別の調合が用いられているはずです。
つまり、日本における漢方医学の位置づけは新しいというよりは、見直されてきているといったほうが正しい認識かと思います。
ただ、一般の病院やクリニックで広く使われるようになった一方で、対症療法のような西洋医学的な誤用が問題となっている、というのが今の現状です。
個人的な回答になりますが、ご質問に答えてまいります。
①漢方薬にも副作用があることを、薬剤師さんは認識していますか?
ほとんどの薬剤師が認識しているはずです。現在の薬学教育においても、漢方には副作用があるというのは教えられています。
しかし、それらは主に生薬由来の一部の副作用であって、各患者の「証」に合わなかった際の副作用についてはなかなか把握できてないと思います。
②間質性肺炎発症の危険を犯して、小柴胡湯を肝炎治療に使用することは妥当だと思いますか?
ひと昔前と現在では肝炎の治療はがらりと変わっていますし、漢方の副作用についても研究が進み認識されるようになってきています。
治癒を目指せる副作用の少ない特効薬が出てきており、リスクを考えれば小柴胡湯の優先性は下がってきているのではないでしょうか?
妥当かどうかは、個々の患者さんの体質や西洋薬への反応性も考慮しないことには、一概には言えないかと思います。
③これから漢方の処方が広く行われる可能性がありますが、薬剤師さんとして対応する自信はありますか?
まずは処方する先生の漢方理解という根本的な問題がありますが、自信があるかないか、に関わらず必要な情報は提供していなけばいけないと思います。
少し論点は変わりますが、漢方薬に関しては「症状」ではなく、個々の体質や体の状態をみて決めるものです。
そういう本来の漢方医学を実施するには、一定以上の臨床経験や教育を受けた方でないと有効な治療は難しいと思うのが正直なところです。
ちなみに漢方薬・生薬認定薬剤師という認定制度はありますが、そういう類のものでは臨床に使える知識や経験としては不十分だと思います。
>海部麿さんへ
海部麿はさまざまなご経験をされており、コメントから誰かに伝えたいという熱意も強く感じました。
もしよろしければ、ご自身のお考えや体験から通して学ばれたことなどを、他の方々に伝えてみませんか?
媒体としてはそれほど大きな影響力はないですが、数千人には届けることができるかと思います。(記事内容によっては数十万の方に届けることができます。)
もしなにか訴えたいことがありましたら、ぜひ1つのテーマでも投稿いただければと思います。きっと多くの方のお役に立つと思います。
その際は、上のお問い合わせよりご連絡いただければ幸いです。
海部磨さんへ
私の記事にコメントを頂きありがとうございます。
小柴胡湯で間質性肺炎になるという可能性は、少なからずあると漢方薬の講義で
聞いたことがあります。もちろん亡くなられたお母様の苦しみ、如何ばかりであったか…
と感じています。
本来であれば、薬剤師が患者さんの自覚症状に敏感になっていれば、苦しみを抱えて
亡くなることもなかったと思いますが、残念ながら、そこまで、病棟勤務で見れていなかったのではないかと思います。
医療現場に足を実際に踏み入れて思うのは、本当に、生きたいと思っておられる患者さんのために、なっているのかなと自問自答し続ける日々でした。
漢方薬の処方も多く来ていたのもあって、より関心を持って勉強していきたいと
思いました。
今後も、よろしくお願いします。
しゅがあさん、猫好きさん
いつもありがとうございます。日本の漢方の成り立ち、すごく参考になりました。そう言えば、父が幼い頃、脈診のできるお医者さんを見たそうです。昭和初期です。日本でも漢方医学が進んでいたのでしょうね。
最近は小柴胡湯の研究も進んでいるようですし、C型肝炎も不治の病ではないそうですね。安心しました。
生まれて58年、元来健康でしたが、それでも医療と関わる機会は多かったです。私の経験を、若い人達に伝えたい気持ちは大きいです。
特に、2年前に医療の恩恵を受け、叔母を在宅医療で看取った経験があり、そのことは是非多くの皆さんに伝えて参考にしてもらいたいと考えています。
しゅがあさんのおっしゃる通り、発表させていただこうと思います。
近日公開予定。よろしくお願いします。
海部麿 さん
今でも漢方医、もしくは漢方薬局では脈診、舌診、触診などを基本とする漢方診療は行われていると思います。
ただ漢方にも様々な流派があり、見立ても各々変わってくるようで、なかなか深く難しい世界だなという印象があります。
今後の日本でも、より効果的な漢方治療が発展していけばよいですね。
ぜひご経験お聞かせください。お待ちしております^^