【副作用学講座Vol.4】その吐き気、ジギタリス中毒では!?

こんにちは、第4回です。
今回から各論に入っていきます。

テーマは「ジギタリス中毒」です。
ジゴキシン製剤による悪心・嘔吐は
かなり有名な副作用ですが復習しましょう。

悪心・嘔吐といった消化器症状は、
それ自体「重篤な副作用」ではありませんが、
患者にとっては非常につらい症状です。

また、ジギタリス中毒をはじめとする
重篤な副作用の初期症状であることも
多いので注意が必要です。

悪心・嘔吐の原因と機構は大きく分けて
3種類存在します。

・末梢での嘔吐刺激が迷走神経、交感神経、
前庭神経などを通って嘔吐中枢に伝達される場合

・化学受容器引き金帯
=(chemoreceptor trigger zone=CTZ)を介する場合

・頭蓋内病変による嘔吐中枢への直接刺激で起こる場合

これらのうち、ジゴキシンなどの薬物による
悪心・嘔吐はCTZを介する機序が多いのです。
ここでもう一度CTZの復習を!

第4脳室底にあり、血管が豊富で血液脳関門がないので、血液や脳脊髄液中の代謝物、ホルモン、薬物、細菌の毒素などさまざまな催吐性刺激を受ける領域。最後野に属している。神経伝達物質では、ドパミン、セロトニン、サブスタンスPなどが、薬物ではモルヒネ、ジギタリスなどが刺激となることがよく知られている。

本題ですが、ジギタリス中毒で最も危険
なのは消化器症状ではなく「不整脈」の出現です。

しかし、その初期症状として悪心・嘔吐、
視覚異常(ものが黄色く見える)、脈の異常を
訴えることがあるのでこれらが重要な兆候になります。

◆ジゴキシン服用中は血清K値をモニターせよ!

利尿薬の服用、食事摂取不良、下痢などで
低K血症を起こしている場合では、
特にジギタリス中毒になるリスクが高まります。

ジゴキシンの有効血中濃度は0.8~2.0ng/mLです。
1.5ng/mL以上は中毒域に近いために
特に注意が必要と言われています。

血清K値が低くなってくると、
この範囲でも中毒症状が生じるようになります。

高齢者では浮腫改善のため、
K排泄型の利尿剤を服用し、
K値が低下している場合があるので注意です。

◆高齢者ではジゴキシンが溜まりやすい!

ジゴキシンは腎排泄型の薬物で、
半減期は約36~48時間と言われています。

そして、薬を飲み始めて定常状態に達するまで
(血中濃度が一定になるまで)には、
半減期の4~5倍程度かかります。

つまり、1週間以上は少なくとも
血中濃度は上昇していくことになります。

高齢者で腎機能が低下している場合は、
さらに半減期は延長するため、
定常状態に達するまでに時間がかかります。

ジゴキシンはTDM(薬物血中濃度モニタリング)
の対象となる薬物ですが、もし投与開始数日後に
行ってしまうと、検査後に血中濃度がどんどん上昇しています。

結果、検査結果では治療域内でも、
吐き気など症状を訴えているときには、
中毒域にまで血中濃度が上昇していることもあるわけです。

◆もし中毒の疑いがあったら?

ジゴキシンはもともと半減期の長い薬物で、
投与を中止しても急激に血中濃度が低下する
ことはないので、まずは服用中止を提案します。

血清K値が正常で、不整脈の発現もなければ、
ジゴキシン中止と循環器科の受診で対処します。

もし不整脈がある場合は、死に至る可能性
があるため、早急な対応(リドカイン、一時的ペーシング)
が必要になります。

以上、ジギタリス中毒に関するお話でした。
「食欲低下を訴える心臓の悪い高齢者には気をつけろ!」
ということで締めたいと思います。

では、次回もよろしくお願いします。

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