こんにちは、第6回です。
今回は麻薬治療中の悪心・嘔吐がテーマです。
現在、特にがん患者の疼痛緩和目的で
様々な「医療用麻薬」が使われています。
これらの大きなデメリットして、
「眠気」「吐き気」「便秘」などの
麻薬特有の副作用があることが知られています。
それらは薬理作用に基づくものであり、
ある程度は許容されるものですが、
できるだけQOLの高い時間を確保したいものです。
今回はこの中でも「吐き気」についてです。
そもそもがん患者の40~70%に悪心・嘔吐
が生じると言われています。
薬剤師や医療スタッフは麻薬や抗がん剤
に注目しがちですが、「病態」からくるもの
も多いということを知っておく必要があります。
「病態」に基づく悪心・嘔吐の原因としては、
・消化管閉塞(胃内容物排出遅延)
・がんの脳転移
・がん性腹膜炎
・肝腫大
・腹水
など原因は様々想定できます。
また、意外かもしれませんが、
「高Ca(カルシウム)血症」はがんの合併症として
頻度が高い病態です。
◆なぜCaが高くなるの!?◆
悪性腫瘍に伴う高Ca血症の80%は,腫瘍細胞が過剰に産生・分泌する体液性物質(PTH-related protein; PTHrP)によって起こる(=humoral hypercalcemia of malignancy; HHM)。HHMは肺扁平上皮癌,乳癌,泌尿生殖器系腫瘍や成人T細胞白血病での発症頻度が高い。一方,肺癌,乳癌などの骨転移や多発性骨髄腫などでは,骨転移した局所で腫瘍が産生する骨吸収因子によって起こる(=local osteolytic hypercalcemia; LOH)。
高Ca血症の症状としては,
食欲不振,嘔気,口渇,多尿,便秘などがあり、
血清Ca濃度が16mg/dL以上になると,傾眠,昏睡をきたします。
(これを高Ca血性クリーゼと言います。)
話が少し逸れましたが、
「吐き気」一つとっても、こういった様々な角度から
考察し、判断していく必要があるんですね。
では、話を戻して、
最終的に「麻薬による副作用だ」と判断したら
どのように治療していくか?という話に移ります。
日本緩和医療学会:ガイドラインより引用
上の図を見て分かるように、
麻薬(オピオイド)による悪心・嘔吐の
発生経路は数種類存在します。
目の前の患者を観察して、
いったいどの経路による影響が大きいのか
を判断して治療していくことになります。
◆血中濃度上昇に合わせて起こる場合◆
具体的には、
麻薬を増量したときや投与した後に
吐き気が強くなったときですね。
そのときはCTZ刺激による機序が考えられるので、
中枢性ドパミンD2受容体遮断薬を選択します。
例:プロクロルペラジン、ハロペリドール
◆食後に起こりやすい場合◆
麻薬の消化管蠕動運動抑制による機序
が考えられるので、消化管の運動機能を
改善するための薬剤を選択します。
例:メトクロプラミド、ドンペリドン
◆動作時(体を動かした時)に起こる時◆
前庭刺激による機序が考えられるため、
いわゆる酔い止めの抗ヒスタミン薬を選択します。
例:ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミンなど
◆上記の方法で無効な場合◆
CTZや嘔吐中枢など存在するドパミン受容体、
ヒスタミン受容体、セトロニン受容体などを遮断する
目的で、オランザピンやリスペリドンなどの
非定型向精神薬を使用することもあります。
以上のように、
「悪心・嘔吐」の原因を判断した上で、
「どういう状況・時間帯で起きやすいか?」を観察し、
適切な薬で対処することが重要になるということですね。
なお、麻薬製剤による悪心・嘔吐は、
1週間程度で耐性ができるため、
制吐薬の使用も1週間程度にすることが好ましいです。
制吐薬の漫然投与により、
抗ドパミン作用による余計な副作用が
生じるリスクもあるので注意が必要です。
”必要な薬を必要な期間のみ”
という考え方は常に意識していたいものです。
では、今回の話はここまでです。
次回もよろしくお願いします。
ありがとうございました!