【第3回】超分かる薬物動態学~分布容積とは?~

薬物態学×分布容積

今回も、重要なテーマ。
「分布容積」についてです。

どういう考え方かというと、
私たちの身体を水の入った大きなフラスコに見立てます。
そのフラスコの大きさが分布容積になります。

それぞれの薬にとって、
私たちの身体がどのくらいの大きさのフラスコ
になるんだろうか?ということです。

1gの塩を小さなフラスコと
人の身長ほどもある大きなフラスコに
溶かすとどうなるか?

大きいフラスコだと、
すごく濃度が薄くなりますよね。
この濃度が「血中濃度」なわけです。

濃度(mg / L)=薬物量(mg) / 容積(L)
というのは分かると思います。

単純にこれを変形して
容積=薬物量 / 濃度
として考えたのが分布容積なのです。

式をみると、
Vd=Div/Co
Vd:分布容積
Div:薬物の投与量
Co:血中薬物濃度

使っている値は、
「投与量」「血中濃度」のみです。

「分布容積」と「実際の身体の容積」とはまったく関係ありません。
あくまで、分布容積とは”みかけの”容積です。

分布容積を計算すると、
薬物の「組織移行性」を知ることができます。

薬が血液以外の場所、
例えば、脂肪組織や特定の臓器などに
集まりやすい場合はどうでしょう?

その分だけ血液中から
薬が各臓器にとられていくので
血中の薬物量(血中薬物濃度)は低くなりますよね。

その場合、Coが低くなるのでVdは大きくなります。
⇒血液中以外にひろく分布するということです。

なので、同じ人に違う薬を投与した場合、
血液の量は一定ですが、
薬によって組織移行性は異なるので、
Vdはそれぞれ異なる値を示します。

例えば、XさんにAとBの薬をそれぞれ100mg投与します。
血中濃度を測るとAが1mg/L、Bが10mg/Lだったとします。

式で計算すると、
Aの場合のVd=100L
Bの場合のVd=10L
となります。

結果、Aの方が見かけの容積は10倍になってしまいます。
当然ですが、Xさんの実際の容積は変わりないです^^

なんでこの分布容積が必要かというと、
薬の代謝・排泄を考えるときには、
血液中の薬に注目する必要があるからです。

もし薬物が血中濃度と同じ濃度で分布したら、
どのくらいの量の血液に溶けていることになるのか?
と知るために分布容積を考えるのです!

次回は、具体的な計算方法に入っていきたいと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!

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コメント

  1. くまま より:

    分布容積調べてたらたどり着きました!すごい分かりやすいです

    • しゅがあ より:

      >くまま さんへ
      大変うれしいコメントありがとうございます!
      お役に立ててよかったです^^

  2. のまる より:

    こんにちは!薬学4年生です。
    薬物動態学が苦手で、よく式を見ては考え込んでしまいます>_<

    よければ、以下の式について教えていただけませんか?

    Vd=Vp+Vt•fp/ft

    この式について、Vtがfpやftの割合に影響を受けるのは納得したのですが、なぜVpにはft/fpをかけなくてもいいのでしょうか?

    • しゅがあ より:

      のまるさんへ

      >Vtがfpやftの割合に影響を受けるのは納得したのですが
      まず、ここの理解がちょっと怪しいですね^^;
      fp/ftがVtに掛けられているのですから、Vtが影響を受けるわけではなく、Vdが影響を受けていると考えたほうが自然です。
      Vtそのものは組織容積ですから、あらかじめ各個人で決まった値ですよね。

      で、なぜVtにfp/ftが掛けられているのかといえば、
      fp=血漿中のフリーな薬物の割合
      →これが大きければ組織に移行しやすくなる。
      →つまり、Vt•fp/ft全体としては大きくなり、みかけのVdも大きくなる。

      一方で、ft=組織中のフリーな薬物の割合
      →これが大きければ組織にはとどまりにくい
      →言い換えれば、組織のタンパクに結合してくれたほうが組織への移行率は高い
      →ftが小さくなればVt•fp/ft全体としては大きくなる
      →みかけのVdは大きくなる

      という理屈です。念のため確認しておきました!

      で、なんでVpにはfp/ftは掛けられていないかというと、
      Vpは血漿の容積ですから、薬物がタンパクに結合しようが、しまいが、薬物を投与した瞬間に広がる部分の容積ですよね。

      あくまでタンパク結合率が影響するのは、血漿⇔組織の移行に関するときであって、血漿だけを考えているVp部分には掛けなくていいっていうわけです。

      要は、投与された薬物が血漿の隅々にいきわたるのは前提として、そこから組織に移行すればVd>Vpになるし、移行しなければVd=Vpになるということです。

      逆に言えば、VdがVpよりも下回ることはないわけですね。

      なんとなくイメージできたでしょうか?^^

  3. 田坂 より:

    とても分かりやすかったです!
    有難うございます!

  4. りのげし より:

    質問です。救急センターで医師をしています。
    抗菌薬選択の際に臓器移行性や組織移行性も選択ポイントにしますが、これらの移行性と分布容積が大きいことは=なのでしょうか?
    つまり分布容積が大きい場合、組織に移行した薬剤は薬理効果を発揮するのでしょうか?それとも血漿中の濃度が高くないと効果を発揮しないのでしょうか?

    • しゅがあ より:

      りのげし さんへ
      「臓器移行性がある=分布容積が大きい」については、
      大まかなイメージとしては間違いではないと思いますが、「臓器集積性がある⇒分布容積が大きくなる」「分布容積が大きい⇒臓器移行性が大きい可能性がある」というイメージのほうがより本来の意味に近いと思います。

      分布容積というのは、それ自体が意味をもつものではなく、言ってみれば単に「血液中以外」に薬が分布するかどうかという指標です。
      分布容積が大きいということは、どこかの組織や体液に流れていることを意味していますが、それが抗菌薬の効果と直接的に結びつけることはできないと考えます。

      分布容積が大きいということは、体のさまざまな組織にいきわたる可能性があるということですが、抗菌薬の場合には特定の感染組織にいかに集積するかが重要ですよね。
      分布容積がいかに大きくても、目標の組織には移行しない(たとえば髄膜など)のであれば意味がありません。

      よくTDMにより血液中の濃度を測定しますが、これは血液濃度と組織濃度が比例するという前提のもとで意味を成します。ですが、たとえば血液からある特定の組織に移行し、そこに強い親和性をもつ抗菌薬であれば、血中濃度は下がっても、その組織では高濃度に存在して効果を発揮するケースもあるかもしれません。

      こういった場合には、血中濃度だけをモニタリングしてしまうと、過量投与や副作用のリスクが高まってしまうかもしれません。

      臨床では、各組織濃度を測るということは困難だと思いますので、血中濃度を参考にされていると思いますが、理論上はこのようなことが起こりうると考えます。