定常状態とは?腎障害と定常状態の関係【読者質問】

今回もよいコメントをいただいたので、そっくりそのままテーマにさせていただきます笑

ご質問やご意見をもらうことで、「みんなで楽しく勉強しよう」というコンセプトが実現できて嬉しい限りです。。。

いただいたコメントや質問は、今後もドンドン紹介していくので、質問してくれた方はご了承ください!

そういったコミュニケーションや勉強をしたいっていう方々と楽しく学んでいきたいって思っているので^^

自然と学べる「場」ができて、その過程をみて皆が学べる、そしたら最高じゃないですか!?

それが学問の発展、ひいては薬剤師の成長につながると思っています。

・・・と、こんなオヤジ臭い話は置いておいて、早速今回の質問です。

コメントの記事はこちら
【第11回】薬はいつ効くのか?~半減期と投与間隔の関係に迫る~

分かりやすくてとても勉強になります。本当にありがとうございます!

質問なのですが、例えばザイザルは
半減期 8時間
投与間隔 24時間
とすると、3なので通常であれば定常状態が無い薬剤です。
しかし、腎障害がある患者さんが飲むと
半減期 25時間に伸びることがあり、(投与量を減らすとか、そもそも飲んではいけないことは差し引いて)その場合は
24÷25=0.96
腎障害等で半減期が伸びると、反復投与で定常状態になるのでしょうか?
(初回投与でMAXの薬効を得たあと、反復投与すると定常状態となり、薬効の増強or副作用の発現が起こるのでしょうか?)

うん、すごくよい視点だなーって思います。

自分で、「それならば、このケースはどうだろう?」って考えていくってすごく大切ですよね。

今回の質問をみて、僕が少し考えたこと、そして触れておきたいは、ずばり「定常状態ってそもそもなんだっけ?」ということです。

上の記事で紹介したのは、定常状態にまつわる「ある法則」でした。

その内容は少し復習してほしいのですが、今回注意しておきたいのは「公式や数字に引っ張られすぎない」ということです。

特に臨床薬学という現場の知恵を考えていくときには、です。

さて、記事内で紹介したRitschel教授のこのような主張です。

「投与間隔がt1/2の3倍以内であれば、t1/2の5倍の時間にわたって連続投与をすると、薬物血中濃度は定常状態に達する」

というもの。

で、こういった具体的な数字がでてくると、話が分かりやすくなるので、つい「機械的」に考えてしまいがちなんですよね。

「3倍」という数字にこだわって、そこを境目に定常状態をもつ薬ともたない薬がスパッときれいに分かれるんじゃないか?って思ってしまうんですよね。

でも、一旦立ち止まって、もう一度「定常状態」について考えてみましょう。

そもそも定常状態とは何だったかというと、薬の入っていく量と消えていく量が釣り合った状態のことでした。

これって原理的には、すべての薬で起こりますよね。ただ、「前回飲んだ分」が無視できるものか、無視できないものなのか、の違いです。

じゃあ、無視できない基準をどこに定めようかと考えたときにでたアイディアがRitschel教授の公式です。

薬を飲んだら、永遠に薬はなくならない!?

では、私たちがある薬を1錠飲んだら、体内ではどういうことが起こるでしょう。

「ADME」にしたがって、吸収・分布・代謝・排泄されます。

半減期というのは、代謝と排泄に関わるパラメータですよね。つまり、飲んだ量(吸収された薬)が体内で半分の量になる時間です。

じゃあ、そのまた半分になるのは、倍の時間がかかり、そのまた半分になるにはさらに倍の時間がかかり、そのまた・・・

これって、この理論で計算していったら、もしかするとその人が生きている間にはゼロにはならないかもしれません。

つまり、薬物動態的には、一回飲んだ薬は死ぬまで体に残っている(笑)ということです。

まあ、実際にはおそらくどこかで、最後の1分子が代謝されるか、排泄される瞬間はいずれくるはずなんですよね。

でも、これって半減期の何倍の時間がかかるんだって話です。

だから実際のところ、薬を続けて飲むときには、多かれ少なかれ「前に飲んだ分」がまだ体内に残った状態のはずです。

つまり、すべての薬は、続けて飲んでいくと、蓄積分というのが絶対にあるはずであり、それが加わった一定の血中濃度で落ち着くはずです。

ただ、半減期が長い薬と遅い薬というのがあるわけで、それらを「投与間隔」とからめて何か基準を定めて区別できないか?と考えたわけです。

半減期の長い薬では、はじめに飲んだ薬が結構まだ体内に残っているから、そこんとこちょっと考慮したいよねー、という発想です。

そこで、この分野を一生懸命研究したRitschel教授が、「このくらいを目安したらどうでしょうか?」と提示したのが、定常状態の公式なんですよね。

だから、これは決して絶対的なものじゃないし、極論をいえば、すべての薬は「続けて飲めば」どこかで定常状態になっています。

ただ、半減期の短い薬(すぐに代謝されてしまう薬)に関しては、次に飲むときには大部分が代謝もしくは排泄されてしまっているから、持ちこし効果は考えなくてもいいよね、というだけのことです。

逆に、半減期が短い薬であっても、投与間隔をどんどん短くしていけば、前回分の持ちこし分が蓄積していき、血中濃度は上がっていきます。長い半減期をもつ薬の定常状態と同じような状況になるということですね。

腎機能が落ちれば、定常状態になるの?

もし仮に、健常人であれば定常状態にならない薬を、腎障害の人に投与したらどうなるのか?

腎排泄の薬であれば、腎機能の低下はそのまま「半減期の延長」を意味します。

ということは、当然ですが健常人では定常状態に達しないが、腎障害の人では定常状態に達するという状況、はありえますよね。

>初回投与でMAXの薬効を得たあと、反復投与すると定常状態となり、薬効の増強or副作用の発現が起こるのでしょうか?)

血中濃度が上がっていき「定常状態になってから」がMAXの薬効になるので、そこはちょっと勘違いでしょうか?^^;

当然、健常人と同じ用量を腎障害の人に投与していけば、定常状態になったときの血中濃度が高止まりするので、そういう意味では効果や副作用のリスクは高まる可能性はありますよね。

ただ一方で、半減期が短くても、効果が長く持続する薬というのはたくさんあります。こういった薬の場合には、血中濃度だけに注目して評価することはできないですよね。

薬力学・薬理学という、もう一つの大きな壁がどうしても入ってきます。

ということで、定常状態と臨床効果を単純に結びつけるのは、ちょっと危険かもしれません。(もちろん考えること自体は一定の意味があるし、楽しいのですが^^)

なので、現状では、細かい定常状態の予測よりも「半減期の長い薬は、腎機能が落ちると高い血中濃度が持続するから、必要最小限の用量で使った方がいいよね」というシンプルな感覚が大切にしたいと個人的に感じています。

まずは、ここを徹底して「最小限の薬で、最大の効果と最小の副作用を!」ということを、薬剤師が主体となってリードできれば、今の医療レベルを一歩前へ進めることができると思っています。

それでは、今回はこのあたりで。何か参考になれば幸いです。

では、また!

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コメント

  1. 理数オンチ勉強中! より:

    しゅがあ様

    詳しく解説してくださり、ありがとうございました。
    カチカチに固まっていた頭が、フニャリとしました。

    第11回の中で、
    >ロキソニンは1日3回服用
    投与間隔 ≒5となるので、定常状態には達しません。
    >これはつまり、1回目の服用から最大の効果を得られるということです。
    >逆にいえば、繰り返しても効果が強くなることはありません。

    『繰り返しても効果が強くなることはない』というところを読んで、例えば痛みが強いからといってロキソニンを短期間で繰り返し飲みたがる患者さんに、効き目に違いは無いと説明できる(Cmaxが大きくなるので、胃障害など副作用が出やすくなるでしょうか。)のかなと思いました。

    そして、
    じゃあザイザルも、腎機能が正常であれば1回目の投与で得られる効果がMAX。
    しかし腎障害で半減期が伸びたら定常状態→繰り返し服用で効果増強(副作用発現?)&延長するのかな
    と機械的に考えてしまい、勝手にこんがらがっていました。

    言葉に縛られ過ぎて、大事なことを忘れていますよね。
    最小限の薬で、最大限の薬効と最小限の副作用を!
    大切なポイントはどこか、どこに注目して学べば、考えれば、現場で患者さんやコワーカーに還元できるか、意識して勉強を続けたいと思います。

    • しゅがあ より:

      そうですね。すごく大切な感覚をつかまれている感じがしますよ!
      ぜひそのイメージをもって今後も勉強がんばってください。

      体というのは、紙面上の単純な計算どおりにはなかなかいかないものだと思います。
      だからこそ面白い部分もあるし、すごく難しい部分でもありますよね。

      広く深い洞察と視野をもって取り組めば、その真理にきっと近づけると思います。