科学的思考法とは何か?~ランダム化比較試験とエビデンス~

科学的思考法×ンダム化試験

evidence

最近の医学的治療・薬物治療には、
”エビデンス”ということが非常に重要視されてきています。
”エビデンス”とは証拠、根拠などを表すevidenceという英語を指します。

経験だけに頼り何の根拠もなしに治療するのではなく、
しっかりとした試験で検討したうえで、その治療の必要性を証明するということです。

一見すると非常に合理的で何の問題もないように思いますが、
本当に落とし穴はないのか?について考察したいと思います。

まず、”エビデンスが高いデータ”とはどういうものかというと、
大規模なランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial;RCT)で検証したデータのことを一般的に指します。

ランダム化比較試験とは何千人、何万人の人を対象にして、
「薬を使う人」と「薬を使わない人(プラセボ)」を
誰にも分からないようにランダムに割り振って、
その薬の効果が本当にあるのか?について統計をとる試験のことです。

なぜこんな試験を行わなければいけなくなったのか?

一つの理由が、多くの治療法でどれを選択すればいいのか分からなくなったからです。

一つの病気に対して治療法や治療薬がひとつしかなかったら、
考える余地はなくその方法を選択するしかありません。

しかし、10種類の選択肢があれば、
すべての医師はその中で最善の選択をしたいと考えるはずです。
その指標となるのが”エビデンスレベル”なのです。

しかし、総合的な視点でデータをみる力がないと、
”エビデンス”に振り回されて目前の患者さんに対して
正しい選択ができないといった状況も起こりうるのです。

指摘されている問題点の一つは、
ランダム化比較試験で分かるのは”微妙な差”であるということです。
例えば、「徒歩」と「新幹線」でどちらが速いかという問題に対して
ランダム化比較試験を行う人はいません。

”明らかに”新幹線の方が速いからです。

一方、小学生の男の子と中年のおじさんでは
どちらが速く歩いているか?という問題は意見が分かれるところでしょう。

ぱっと見では判断しづらい問題に対して、
膨大なデータを集めて何とかその差を検証するのが
ランダム化比較試験のひとつの側面です。

薬であれば、2つの降圧薬があったとき
どちらの薬がより血圧を下げることができるのか?
を知りたいためにランダム化比較試験を行います。

もちろんランダム化比較試験は
世界各地で行われていますが、その”結果”は必ずしも一致しないことがあります。
人種、対象人数、試験法などの違いにより結果が逆転することもあります。

つまり、目の前の患者さんに対して、
そのランダム化比較試験の条件や結果は
適切なものなのかを常に判断する思考は必要です。

例えば、「小さいカプセルの降圧薬」と
「大きなカプセルの降圧薬」が2つがあったとします。
ランダム化比較試験の結果をみると、
大きなカプセルの方が高い降圧効果を示していました。

「血圧を下げたい」という状況の場合、
単純に大きな降圧薬を選ぶ医師が多いでしょう。

しかし、カプセルの嫌いな患者だったらどうでしょう。
「小さいカプセルは飲みやすいけど、大きいカプセルは飲みにくくて。。。」
もしかすると、この患者は大きいカプセルの飲み忘れが多くなってしまうかもしれません。

こうなると、ランダム化比較試験の結果というのは全く役に立ちません。

実際の治療にエビデンスを考慮するというのは、
こういった脆い側面もあるということを考えなければなりません。

臨機応変に総合的な面から判断できる力をもたないと
「データを見て、患者を見ない」という落とし穴に陥ってしまいます。

<おまけ~RCTの結果のみかた~>
ランダム化比較試験(RCT)で得られたエビデンスを治療に活かす際には次の3つの指標がよく用いられます。

・相対リスク減少率(RRR)
・絶対リスク減少率(ARR)=(absolute risk reduction)
・治療必要数(NNT)

治療群のイベント発生率(脳卒中など)をEER(experimental event rate)、コントロール群(治療しない群)のイベント発生率をCER(control event rates)と呼びます。

絶対リスク減少率(absolute risk reduction:ARR)
=CER-EER
=治療の「おかげで」イベントを起こさずに済んだ人の割合

1/ARR(ARRの逆数)
=NNT(number needed to treat)
=治療必要数
=何人の患者が同じ治療を受けると、1人のイベントが予防できるか

相対リスク減少率(relative risk reduction: RRR)
=ARR /CER
=1-EER/CER

ちょっとイメージしづらいので簡単な例をあげます。
高血圧患者100人のうち2人が心筋梗塞を起こしたとします。

あるカプセル剤を100人すべての人に飲んでもらったとします。
その結果、心筋梗塞を起こす人が1人に減ったとします。

すると3つの指標は次のようになります。
ARR=2/100-1/100=0.01
つまり全体の1%の人が心筋梗塞にならずに済んだということです。

NNT=1/ARR
=1/0.01
=100
つまり、1人の心筋梗塞を抑えるのに100人に薬を飲んでもらわなければならなかった。
99人には、ある意味で無駄な薬を飲ませてしまったということです。

RRR=ARR/CER
=0.01/(2/100)
=0.5(50%)
2人の心筋梗塞になるはずだった人のうち一人が助かった。
⇒全体からみたら1%の人に効果があっただけなのに、あたかも50%の人に効果があるようにみえます。

以上、簡単な例を示しましたがどうでしょうか?
RRRは分かりやすい指標ですが、実際の効果より高い治療効果があるように錯覚する場合があります。

したがって、ARR=実際に治療により恩恵を受ける人の割合(全体からみた割合)、あるいはその逆数で「何人の患者に治療を行えば1人の病気を改善できるか」を示すNNTで評価する方が臨床的に有意義だと言われています。

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