【副作用学講座Vol.8】PPI(ランソプラゾール)で起こる下痢?

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こんにちは、第8回です。
今回は「胃薬で下痢が起こる!?」
というテーマでお話しします。

胃薬には、H2ブロッカーやPPI
といった「胃酸を抑える薬」と、
PG(プロスタグランジン)系に働く
「胃粘膜を保護する薬」があります。

大きな声では言えませんが、
あまりにも胃薬を慢性使用しすぎでは!?
というのが現場で感じる印象です。

H2ブロッカーやPPIは、病名によって
本来の”服用期間”が決められていますが、
そんなのお構いなし!というケースも多いと思います。

今回は、そんな現状に警鐘を鳴らす
テーマでもあります。

紹介する病名は
「膠原性大腸炎」というものです。
英語ではcollagenous colitis(CC)と呼びます。

簡単にいうと、大腸の表面に
膠原繊維といってぶよぶよした組織が
生じて、厚くなってしまうという状態です。

はっきりとした自覚症状がでる
頻度としては10万人に数人とされていて、
高齢の女性に多いと報告されています。

ただし、日本における報告では、
慢性下痢患者のう82人のうち、
15人で膠原性大腸炎を認めたとの報告があります。

よって、PPIを服用中の患者で
慢性的に下痢を経験している場合では
意外に頻度の高い副作用かもしれません。

なぜ下痢になるのでしょうか?
以下の2つの機序が考えられています。

・肥厚した膠原繊維帯の存在により
結腸におけるNa+とCl-の再吸収が阻害される
ことによる分泌性下痢の機序

・絶食により軽快することがあるため、
浸透圧性の下痢症(※)の機序

(※)
吸収されにくい高浸透圧性の溶質が
腸管内に多量に存在するため、
水分が腸管内腔に移動して起こる下痢のこと。

◆症状がでてしまったら?

もし、膠原性大腸炎と判断された場合は、
PPIなど被疑薬を中止することが重要です。
薬剤中止のみで症状が軽快・消失することも多いからです。

頻度が多い薬としてはランソプラゾール
NSAIDs、アスピリン、アカルボース、
ラニチジン、チクロピシン、カルバマゼピン
などが報告されています。

よって、まずは患者の薬剤服用歴を
確認して、これらの薬剤を可能であれば
すべて中止するよう提案します。

また、経腸栄養剤を使用している場合は
その影響も考慮しなければなりません。
浸透圧や投与速度も検討・考慮します。

原因薬剤が特定できず、症状が改善
しない場合には、慢性下痢を示す
炎症性腸疾患と同様の治療を行います。

具体的な治療としては、
・止痢薬(ロペラミド)
・整腸薬(乳酸菌製剤など)
・サリチル酸製剤(サラゾスルファピリジン、メサラジン)
・副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)
などの投与が行われています。

◆胃薬の長期使用は、
膠原性大腸炎(CC)以外にも悪影響がある!?

PPIやH2ブロッカーのような
いわゆる「胃酸抑制薬」にはCC以外にも
リスクが言われています。

通常、胃内はピロリ菌感染を除いて
無菌状態で保たれています。

しかし、PPIなどの強力な酸分泌抑制薬
により胃内pHが上昇することによって、
細菌を死滅させることができなくなります。

例えば、食事や飲水などで経口摂取された
カンピロバクターやサルモネラ菌などによる
感染性胃腸炎などの発症リスクが高まると報告されています。

また、SIBOと呼ばれる病態も報告されています。
これは小腸内がバクテリア異常増殖によって
大腸化し消化不良を起こすものです。

誤嚥性肺炎などの肺炎リスクの上昇も
胃酸分泌抑制による影響も指摘されており、
高齢者の場合には特に注意が必要です。

以上、PPIによる下痢の副作用
についてと長期服用によるリスクという
ことについてまとめました。

H2ブロッカーやPPIという薬の登場で
逆流性食道炎や胃潰瘍などの治療は
飛躍的に向上したのは事実です。

ただし、症状が改善したにも関わらず、
長期間にわたって使用しているケース
が非常に多い薬の一つです。

「胃や十二指腸」は生体が必要だから
「酸性」を維持しているわけです。

それを薬によって恒常的に
抑えてしまっているわけですから
何かトラブルが起きても不思議ではないなと感じます。

「必要のなくなった薬は使わない!」
この考えが浸透していくことを祈ります。

では、次回もよろしくお願いします。
ありがとうございました!

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