こんにちは、第7回です。
今回はウブレチド(一般名:ジスチグミン)
による”下痢”がテーマです。
このジスチグミンの誤調剤による
痛ましい死亡事故がありました。
マグミットという下剤が処方されるところ、
毒薬指定されている「ジスチグミン」が
調剤され、患者の手に渡ってしまったということでした。
毒薬に指定されていることからも、
ジスチグミンは副作用をしっかりと
モニタリングしなければならない薬です。
今回は特に注意すべき副作用と
その検査法、初期症状などについて
まとめていきます。
◆コリン作動性クリーゼとは!?
まず「クリーゼ」っていうのは、
英語のcrisis(危機)と同じ意味を指します。
ドイツ語読みでクリーゼと読みます。
内分泌の急激な欠乏・過剰により、
危機的な状況に陥っている状態を指します。
コリン作動性とついているので、
「アセチルコリン」が過剰になって
起こる危機的な症状ということですね。
ジスチグミンは「ChE(コリンエステラーゼ)」
を阻害して、アセチルコリン(ACh)の分解
を抑えるために、体の中でAChが溜まってしまいます。
なので、副作用もその機序に従った
さまざまな症状が起こるのです。
「下痢」が最も多く、次いで悪心・嘔吐、
腹痛、徐脈、発汗、流涎、喀痰などがあります。
お腹がゴロゴロして痛む、
水のような下痢、
吐き気、
唾液が増える、
痰が増える、
汗・涙が出る。。。
これって、つまり「副交感神経」が
過剰に刺激されて起こる症状だということ
が分かります。
これらの初期症状を放置すると、
意識障害、縮瞳、呼吸不全、痙攣など
致命的な状態に移行してしまいます。
◆CKDや高齢者では注意せよ!
ジスチグミンの半減期は70時間です。
つまり定常状態(血中濃度が安定)に
達するまでに約2週間かかります。
また、ジスチグミンは腎排泄型の薬剤
なので、CKD(慢性腎臓病)や高齢の
患者ではさらに体に溜まりやすくなります。
よって、こういった患者では、
特に投与2週間については
上記の初期症状をモニタリングしていく必要があります。
◆ジスチグミン服用中はChEを検査せよ!
上で説明したように、ジスチグミンは
それ自体が直接作用するわけではなく、
ChEという酵素を阻害することで効果を発揮します。
【作用機序】
ChEが阻害され活性が低下する。
↓
アセチコリン(ACh)の分解が抑えられ、
シナプス間隙のAChが蓄積する。
↓
・副交感神経支配臓器に対してムスカリン作用
・骨格筋の神経接合部でニコチン様作用
↓つまり。。。
手術後や神経因性膀胱では。。。
⇒膀胱の収縮を助け、排尿をスムーズにする。
重症筋無力症では。。。
⇒筋肉神経のAch受容体
が自己免疫により障害を受けている。
ジスチグミンは筋肉を収縮させる
ACh(神経伝達物質)を増やすことで、
筋肉の神経の働きをよくし、筋力を回復させる。
よって、このChEの検査というのが、
ジスチグミンの副作用を判断するのに
役立つというわけです。
目安として、血清ChE値が投与後に
20%以下に低下している場合に重篤な
副作用が現れると言われています。
投与前にこういった詳しい検査をしている
ケースは少ないので、あくまで初期症状
をみていくことが基本になります!
◆副作用が起こってしまったら?
【初期症状の段階で発見し、軽症の場合】
・アトロピンの皮下注or経口投与
・腸管除染
下剤投与(クエン酸マグネシウムなど)、胃洗浄
・可能なら胃液、血液、尿中の定性試験
【けいれん、呼吸不全など中等・重症の場合】
・呼吸・循環管理
(酸素投与、気管挿管、人工呼吸)
・アトロピンの静注(one shot、持続静注)
・腸管除染
・胃液、血液、尿中の定性試験
アトロピンでアセチルコリン受容体を
ブロックして薬理的に対処します。
また可能な限り、体内のジスチグミン
を取り除きつつ、必要ならバイタルを
維持していくという方針ですね。
以上、ジスチグミンの副作用は
初期症状に注意して早めに対処せよ!
ということでまとめました。
ちなみに。。。!
ジスチグミンの用法は
コリン作動性クリーゼの発現防止のため
変更になっています。
「手術後及び神経因性膀胱などの低緊張性膀胱による排尿困難」に使用する際は、成人1日5mgのみとなっている(従来は成人1日5~20mg)。
コメント
ウブレチドの副作用について調べておりたどり着きました。参考になりました。
ただ、慢性腎臓病がCDKと記載されていますのでCKDへ訂正をお願いいたします。
通りすがりの薬剤師 様
すみません、ご指摘ありがとうございました!
すごく恥ずかしいですね^^;
また何かミスを見つけられた際は、ご指導いただければ幸いです!