肝クリアランスと肝固有クリアランスの違い|質問回答

今回は、届いた質問の回答をしたいと思います。

「肝固有クリアランス」にまつわる質問です。

これ、薬物動態学で分かりにくいところの1つなんですよね。

クリアランスだけでも分からないっていうのに、固有クリアランスってなんだよ!っていうね・・・。

ということで、久しぶりにみんなでシェアしておきます。

もしか回答内容が違うときには、誰かが指摘してくれるかもしれないので(笑

肝固有クリアランスとは

ー質問内容ー

今回質問させて頂きたいのは肝クリアランスと肝固有クリアランスのことです。

質問①

まず、クリアランスは血液中にある薬物を除去するのに必要な血液量であることは理解しています。
Qh=肝血流量 Cin=流入薬物濃度 Cout=流出薬物濃度
@肝クリアランスを求める際、
肝クリアランス=薬物消失速度{Qh(Cin-Cout)}÷Cin・・・①
と定義されていています。
ここで、速度を濃度で割って血液量がでるのがいまいちピンとこなくて理解できないのと、なぜCoutではなくCinで割るのかということです。
①で単位を見ると
ml/min=μg/min÷μg/ml で正しいのは分っているのですが。

質問②

あと、肝固有クリアランスを求める際、
well-stirredモデルにおいて

非結合型薬物濃度のみが組織へ移行し、その濃度は血液および組織中で等しいと仮定しています。
よって、組織中の薬物濃度は組織を流れる血液中の非結合型薬物濃度に等しく、
Cout×fであらわされます。fは非結合形分率。

ここで、私が疑問に思ったのは、
なぜCin×fではないのかということです。

Coutは肝で代謝されなかった結合型薬物しか残っていないのでは。
私の考えでは、Cinの中の非結合型薬物が代謝されて、残ったのがCoutなのではないかということです。つまり、Cout=Cin-Cin×f

物質収支だけを考えると、私の考えは間違ってはいない気がするのですがどこが違うのでしょうか。

肝クリアランスと肝固有クリアランスにおいて
薬物消失速度でCin,Coutがごちゃごちゃになっています。

ー質問ここまでー

こういう質問すごくいいですねー。

質問者の考察の過程がしっかりと書かれているので、どこまで考えていて、どこで分からなくなったのかが、すごく分かりやすい。

僕自身もすごく気づきにも繋がるので助かります。

何度もお伝えしてますが、「〇〇が分かりません。教えてください。」はこのブログみてくれている人はナシにしてくださいね^^;

そういう質問は成長するチャンスを逃してしまうし、回答する方もすごくしづらいです。どこから知りたいんだよ!!ってツッコミいれたくなっちゃうので笑。

あ、本題入りますね。

まず、そもそも肝固有クリアランスって何だよ?という話なんですが、これって肝クリアランスとは違うのかよ?と。

答えとしては、同じ場合もあるし、違う場合もある、です。

肝固有クリアランスは、肝臓がもつ「真の」薬物処理能力のことです。要は、条件によってフルに発揮されることもあれば、不完全燃焼に終わるこもあるということです。

言いかえると、肝固有クリアランスは、①薬物ごとの固有の定数であって、②その薬物を代謝できる肝代謝酵素の量であって、③肝クリアランスの最大値です。

たぶんピンとこないと思うので、式をみてみましょう。

CLh = (Qh・fp・CLint )/ (Qh + fp・CLint)

CLh:肝クリアランス

Qh:肝血流量

fp:血漿タンパク非結合率

CLint:肝固有クリアランス

注目すべきは、分子が掛け算、分母が足し算になっているということです。

ということは、あの近似をとるという、よくあるパターンです。

もともと、CLintが大きい場合、つまり、ある薬剤Aに対して肝臓の処理能力がすごく高い場合は、どんだけ血流が流れてきてもバンバン代謝できてしまいます。

ということは、Qh<<CLint・・・分母は近似してfp・CLintになりますから、上下のfp・CLintが消えて、CLh=Qh・・・「肝クリアランスは、肝血流量にかかっているよ!俺(肝臓)はいくらでもさばいてやっからよ!」となるわけです。

これを、血流量依存性薬物といいましたよね。

逆に、肝臓が薬物Aに対して苦手意識をもっている場合(代謝酵素が少ない場合)、つまりCLintが小さい場合は、分母は近似してQhになりますから、上下のQhが消えて、CLh=fp・CLintとなります。

これを代謝能(肝固有クリアランス)依存型薬物といいました。そして、fp(血漿タンパク非結合率)が大きいか、小さいか、さらに2つに分けられる、という話でしたよね。

はい、ここまでが念のため補足したい話でした。

クリアランスの復習

それは、質問①から。

肝クリアランス=Qh(Cin-Cout)÷Cin

という式がいまいちピンとこないです、という質問です。

この式のもとになっている考え方が下のような「フローモデル」というやつです。

→[Cin、Qh]→ 肝臓(代謝) →[Cout、Qh]→

すごく単純なモデルなんですが、こう考えたときに肝クリアランスはQh(Cin-Cout)÷Cinに表せると。

Qh(Cin-Cout)はなんでしょう?

Cin-Cout は肝臓を通ることで減った薬物濃度(μg/ml)です。これにQh(ml/min)を掛けることで出るのは、(迷子にならないように単位も考えていきましょう。)単位時間あたりに代謝された薬物量(μg/min)です。

1分あたりに肝臓で代謝された薬物の量、です。

「薬物量」を「濃度」で割れば、血液量(溶媒の量)がでてきます。

で、問題はCinで割るか、Coutで割るかということですね。クリアランスの定義は汚い(薬物を含む)血液をどれだけきれいにできるか?でしたよね。

だからCinで割るのです。Coutはクリアランスされた後の血液の薬物濃度ですから、このフローモデルを考えたときには、きれいにされる前の濃度で割らないとよく分からない値を計算してしまうことになります。

これは、腎臓のクリアランスを求めるときも同じでしたよね。薬の血中濃度を使って計算していたはずです。尿中の薬物濃度じゃなくて、血中濃度で割ったはずです。(後ではなく、”前”の濃度で割る)

どうでしょうか、少しピンときたでしょうか・・・?

well-stirredモデル

では、質問②に移ります。

上のフローモデルの場合には、肝臓内で起こっていることはどうでもよくって、単純にインプットとアウトプットのみに注目したモデルです。

しかし、CYPのタイプによって肝臓内にある酵素量は違いますから、薬によって肝臓での代謝のされやすさって違いますよね。

well-stirredモデルというのは、それらの違いを考えるために臓器内での薬のふるまいに注目して、かつできるだけシンプルに考えましょうというものです。

実際の臓器というのは、当たり前ですが複雑な構造になっています。

しかし、このモデルでは、臓器を単純な箱(ビーカー)のように考えて、血流(Qh)によって運び込まれた薬物が「瞬時に撹拌されて臓器内に均一に分布する」と仮定します。

イメージとしては「底に穴の開いたビーカー」を「蛇口」の下に置いている感じです。そしてこのビーカー内に代謝酵素が溶けていると想定します。

「蛇口から流れてくる水が血流Qh(ここの薬物濃度がCin)」ですね。

そうやって考えると、ビーカーに入った瞬間から薬物は一瞬で拡散されて濃度が均一になります(=Cout)。もちろんビーカーの底の穴から流れてくる水の濃度もビーカー内の薬物濃度と同じでCoutです。

もうひとつ仮定があって、代謝される薬物はタンパク(アルブミンなど)に結合していない非結合型であって、しかもその結合率(非結合率)は血漿中と同じですと想定しています。

だから、ビーカー内の「代謝されうる薬物の実質の濃度」はCoutに血漿中タンパク非結合率fpをかけたものとなります。

>私の考えでは、Cinの中の非結合型薬物が代謝されて、残ったのがCoutなのではないかということです。

Cinは水道内の濃度(肝臓に入る前の血管内濃度)、Coutは肝臓内(肝臓内にある血管含む)の濃度ですよね。

代謝のイメージですが、連続的なものであるということを忘れないでください。蛇口からずーっと水が流れてきて、ビーカー内で一定のスピードで代謝されて、底から一部流れ出ているというイメージです。

ここで注意したいのが、代謝の現場は、水道管の中ではなく、ビーカー内です。ということは、Coutに血漿中タンパク非結合率fpをかけるというのが自然ですよね。

>Cout=Cin-Cin×f =(1-f)Cin

この式に関しては、等式が成り立っていないのが分かります。肝臓内の薬物濃度が、代謝前のタンパク結合型の薬物濃度ってことはないですよね。

もう一回だけ、ゆっくりと考えてみてください!

自分の仮定や考察が結果とあっていない場合には、いったん自分の想定したイメージから離れる勇気というのも必要になります。

じゃないと、間違った仮定をもとに論理を展開していくことになりますから、その論理がたとえ正しいとしても、結果は異なったものにたどり着きます。

もし行き詰ったら、どこで違う仮定を想定してしまったのかを慎重に探して、一度頭をリセットからゆっくりと考えてみてください!

では、最後までお読みいただきありがとうございました。

もっと肝固有クリアランスについて考えたいという方は、こちらの記事もどうぞ。

肝固有クリアランスをマスターせよ!

スポンサーリンク

コメント

  1. tk より:

    薬物動態学の授業で学んだ記憶はあったのですが、うろ覚えになっていたので大変勉強になりました。単に肝代謝型の薬物であることを覚えていましたが、同じ肝代謝型薬物でも肝血流量と代謝酵素の活性のどちらが肝クリアランスに重要なのか?その薬物のタンパク結合率は?などを意識しながら学習していこうと思いました。

    • しゅがあ より:

      コメントありがとうございます!
      せっかく勉強するのであれば、「臨床で実際に使うなら!?」という視点も忘れずぜひ取り組んでみてください^^

  2. 樋坂章博 より:

    かなり古い質問のようですが、たまたま見かけたのでコメントしておきます。

    まず、クリアランスが薬物を除去するのに必要な血液量との定義は、よく見かけますが、臓器クリアランスに適用できても固有クリアランスに適用できません。

    ですので、薬物の消失速度をその場所の薬物濃度で除した比例定数、との定義の方が汎用性があります。そうすると単位が流速になることも自然に理解できます。

    質問者は「その場所」の選択に迷っているのですが、回答者が意図しているように、全身の一部としての臓器に着目すると入力であり、臓器の中のクリアランスの説明に着目すると出力にもなるということです。

    Well-stirred modelが出口の濃度と臓器内濃度が等しいと仮定しているのは、数学的取り扱いが簡単になるからで、真実ではありません。

    これは高度になりますが、チューブモデルや拡散モデルを勉強すると分かります。モデルによっては臓器内濃度を出口の濃度とは仮定していません。

    これらの臓器モデルは固有クリアランスと臓器クリアランスの関係を数学的に結びつけることですが、肝血流律速に近い薬物以外は単純なWell-stirred modelで十分な精度が得られます。

    回答者がWell-stirred modelの式で血漿蛋白非結合率を用いているのは誤りです。これは全血中遊離形分率(fB)を用いなければなりません。これも教科書レベルで間違っているのをよく見ます。