認知症の服薬指導に役立つ知識まとめ

認知症の服薬指導において重要なポイントをまとめた記事です。

認知症の分類とその症状について簡単に確認し、各症状に対する治療薬の特徴について確認していきます。

目次

認知症の症状

認知症の症状は、「中核症状」と「周辺症状」に大きく分けられる。中核症状は別名で「認知機能障害」とも呼ばれ、脳の神経が傷つくことによって起きる症状である。

また、患者の心理的状態や性格、生活環境によって強い不安を感じるようになり、「妄想」「うつ状態」「興奮」といった症状も現れるようになる。これらを「周辺症状:BPSD」と呼ぶ。

中核症状とは

記憶障害(物忘れ)

中核症状の主な症状は、記憶障害である。新しい記憶が抜け落ちる、覚えられない、以前のことが思い出せないといった症状である。

一般的な物忘れでは、記憶そのものは残っているため、何かのきっかけで思い出すことができるが、認知症では記憶自体が完全に消えているため、体験や経験を丸ごと忘れてしまっていることが多い。

よく「まだ朝食を食べていない」といったことを口にすることがあるが、家族がメニューが何だったかなどヒントを与えても思い出すことができない、といったことが起こる。

その他の中核症状

実行機能障害

物事を整理して理解し、順序よく実行することができなくなる。

見当識障害

自分がどこにいるのか分からなくなったり、時間や場所が分からなくなることがあり、その不安から家にいるのに「家に帰る」などと訴えるようになる。

失語・失行・失認

物の名前が出てこない、言葉の意味が分からない「失語」や、手足の動きは問題ないのに、服の着方が分からない、鍵が開けられないなど、目的とする行動ができなくなる「失行」がある。

目や耳は正常なのに、聞こえる音が何の音なのか、見えている物が何なのかが分からなくなる。食べ物以外のものを「これは食べ物ですか」などと子どものような質問をするようになる。

周辺症状:BPSDとは

認知症患者が日常生活のなかで生じてくる諸症状であり、下記のようなものを総じて指す。

意欲低下:何もしたくなくなって家に閉じこもる

不安・焦燥:不安でイライラして落ち着かなくなる

妄想:事実ではないことを本当であると確信する

うつ症状:やる気がなくて気分が落ち込む

睡眠覚醒リズム障害:睡眠と覚醒のリズムが狂い、生活が昼夜逆転する

食行動異常:食べ物でないものを口にする

徘徊:家に変えると言って外をウロウロと歩き回る

暴力・攻撃性:些細なことで興奮して大声で怒鳴り、暴力をふるおうとする

抵抗:介護者によるケアを拒み、服薬拒否や入浴時の接触を拒否したりする

物とられ妄想:財布や通帳などの場所を忘れてしまい、探してもみつからないことから、誰かが盗んだという妄想を抱く

認知症の分類

原因によってアルツハイマー型(AD)、血管性(VaD)、レビー小体型(DLB)、前頭側頭型(FTD)4つに分類される。

アルツハイマー型認知症(AD)

脳の記憶に関わる海馬が徐々に萎縮し、徐々に脳全体に広がって、記憶障害以外の症状も現れてくる。萎縮は、脳の神経が弱ったり、死滅するために起こるが詳細なしくみは分かっていない。

老廃物である「老人斑(アミロイドβ)」という物質が、数十年かけて脳に蓄積し、神経細胞のなかに「神経原線維変化(糸くずのような物質)」が増えていくことが原因のひとつと考えられている。

血管性認知症(VaD)

脳卒中(脳出血、くも膜下出血、脳梗塞)によって、脳の神経が傷つけられるために起こる。特徴的な症状は、患者が無気力や無頓着になることだが、脳卒中による手足の麻痺や言語障害が伴うこともある。

脳卒中が再発するたびに認知症の症状も悪化するので、その再発を予防することが重要になる。

レビー小体型認知症

蛋白質を主な成分とする「レビー小体」という物質が脳にたまるのが原因といわれている。初期には物忘れだけでなく、うつ病の症状や、睡眠時に悪夢を見てあばれるといった症状がでることもある。

特徴的なのは、アルツハイマー型認知症ではあまりみられない、「幻視(そこにいないはずの人や物、虫など繰り返し見える)」、手足が震える、動作が鈍くなるといったパーキンソン病に近い症状がでることである。

また、これらの症状は日によって、時間帯によって、調子のいい時と悪い時に差があることも特徴である。(認知機能の変動)

前頭側頭型認知症

脳の前頭葉と側頭葉という部位が委縮することで起きる。65歳未満で発症することが多く、初老認知症の原因として知られる。アルツハイマー型認知症とは異なり、記憶はある程度保たれる。

前頭葉は人間的な行動をとるための司令塔として働いているが、その働きが低下すると「堂々と万引きをする」「他人の食事を平気で食べる」「診察中に勝手に歌いだす」などの社会ルールに反した行動が目立つようになる。この際、本人は悪いという意識がないため、あくまで堂々と行動するのが特徴である。

他には、「毎日同じ道順で散歩する」「同じものばかり食べる」など、何度も同じ行動を繰り返すこともある。(常同行動)

側頭葉は、言葉を理解し、聴覚、嗅覚、視覚の意味を理解するために働いている。たとえば、右利きの人であれば、側頭葉の左側が言葉を、右側が視覚を理解するのに働くとされている。つまり、これらの部分が委縮すると、失われる言葉が増えて、何かをみてもそれが何か答えられないということが起こる。

認知症に使われる薬

薬を服用する目的は?

認知症を根本的に治す方法はない。アルツハイマー型認知症では、薬を飲むことによって中核症状の進行を遅らせられる可能性がある。無治療の場合、家族のことが分からなくなるのに3年を要するところ、薬物治療によって5年に先延ばしにすることができるかもしれない。

また、家族や介護者の負担となる周辺症状を緩和するために、向精神薬や抗うつ薬、漢方薬などが使われることもある。

認知症における薬物治療では、顕著な効果がみられないケースが多く、本人や家族の理解がなければ離脱してしまうリスクがある。「変化がないのは、進行を抑えられているかもしれない」という前向きな理解が必要である。

コリンエステラーゼ阻害薬

物事を覚えたり判断するとき、脳内では多くの神経伝達物質が情報を伝えている。その一つにアセチルコリンがあり、アルツハイマー型やレビー小体型の認知症では、このアセチルコリンの量が極端に少なくなっていることが知られている。

アセチルコリンは働きを終えると、アセチルコリン分解酵素(コリンエステラーゼ)によって分解される。コリンエステラーゼ阻害薬は、この酵素を働きを抑えて、アセチルコリンの量を増やすことで、中核症状の進行を抑えるといわれている。

軽度から重度に至るまで全ての過程に使われるドネペジル(アリセプト®)、軽度から中等度に使われるガランタミン(レミニール®)、リバスチグミン(イクセロン®、リバスタッチ®)がある。なお、これらの併用は認められていない。

ドネペジル(アリセプト®)

錠剤、顆粒、ゼリー、口腔内崩壊錠など様々な剤形があり、患者の状態にあわせて選択ができる。薬の効果が表れるまでに35週間かかるともいわれている。

認知症が進行すると、アセチルコリンをつくる神経細胞が壊れてしまい、薬の効果がでにくくなることがある、飲み始めてから1~2年、長くて3年たつと、再度症状が進行しはじめるケースがある。

どのタイミングで中止するかは、定説がないため主治医の判断によるといわれる。

1日1回3mgから開始して1~2週間後に5mgに増量する。重度のアルツハイマー型認知症には、5mgで4週間以上経過後に10mgに増量する。

ガランタミン(レミニール®)

アセチルコリンの分解を抑えるだけでなく、神経細胞のアセチルコリンの受容体(ニコチン受容体)を刺激する作用もあるため、ドネペジル等とは違った効果も期待できる。また、周辺症状にも有効であるという報告もある。

内服液、口腔内崩壊錠があるため、嚥下に問題がある患者にも使用できる。

1日2回8mgで開始し、4週間後に16mgに増量する。必要に応じて24mgまで増量する場合、4週間以上は間隔をあけてから増量する。

リバスチグミン(イクセロン®、リバスタッチ®)

s-ikuseron

Novartisホームページより

ドネペジルとは違うタイプのアセチルコリン分解酵素(ブチリルコリンエステラーゼ:BuChE)を抑える働きもあるため、違った効果を期待できる。

1日1回貼るだけの薬なので、服用に対する不安が少なく、嚥下困難な患者にも使用しやすいという利点がある。他の内服薬から切り替える場合には、間を空けることなく続けて使用できる。主に軽度から中等度の患者に使用される。

1日1回4.5mgから開始して、原則として4週間ごとに4.5mgずつ増量し、18mgまで増量する。

NMDA受容体拮抗薬

メマンチン(メマリー)

脳の神経伝達物質の一つにグルタミン酸がある。アルツハイマー型認知症では、このグルタミン酸に対して脳が敏感になっており、常に雑音が入力されているような状態にあり、次第に神経細胞が壊れるといわれている。

メマリーは、脳神経のグルタミン酸受容体のひとつであるNMDA受容体に蓋をして、グルタミン酸の過剰な刺激を抑える。

つまり、上記のコリンエステラーゼ阻害薬とは、全く異なった機序をもつ治療薬として、それらと併用する効果が期待されている。

主に中等度の患者に使われ、特に興奮、暴言、介護抵抗などの周辺症状のある人で効果が期待できる。

認知症治療薬の副作用

コリンエステラーゼ阻害薬の副作用

吐き気・下痢・食欲不振

アセチルコリンには胃腸運動や胃酸の分泌を促す働きがあるため、その作用を強めるコリンエステラーゼ阻害薬によって、吐き気、嘔吐、胃部不快感、下痢などが起こることがある。

よって、食後に服用するようにし、投与開始時には胃腸障害などがないか確認しながら増量していく必要がある。

また、コリン作動による胃酸分泌促進により、消化性潰瘍を悪化させることがあるため既往のある人には注意したい。

これらの副作用は、薬を継続していくことで消失していくこともあるが、症状がみられた場合には連絡してもらうようにする。

なお、貼り剤であるイクセロンとリバスタッチは、副作用は発生率が3分の1程度に減少するといわれている。

皮膚症状

貼り剤であるイクセロンとリバスタッチは、貼った部位が赤くなったり、痒くなったりすることがある。高齢者は皮膚が乾燥しやすいため、より注意が必要である。

投与初期には生じなくても、増量したときに生じることがあるので注意する。

予防として、背中、上腕部、胸部など貼る場所を毎回変えるのが効果的である。症状がひどく日常生活に支障がでる場合には、医師に相談してもらう。

NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)の副作用

眠気、ふらつき、めまいなどに注意する。また、鎮静傾向が強くなり、動作が緩慢になる、何もやろうとしない、元気がなくなる、しゃべらないといった状態になることもある。

それとは逆に、興奮、攻撃性、幻覚、不穏、手足の痙攣など動作が活発になる症状が現れることもある。これらの変化が顕著な場合には、主治医に相談する。

腎機能が低下した患者では、血中濃度が高くなり副作用がでやすくなるため注意する。1日1回5mgから開始し、経過をみながら1週毎に増量していく。

中核症状に対する薬物療法

各認知症に対するコリンエステラーゼ阻害薬の有効性について、ランダム化比較試験が多数実施され、エビデンスが蓄積してきている。

認知症の型によって、推奨レベルの違いはあるものの、コリンエステラーゼ阻害薬以外の選択肢がない以上、コリンエステラーゼ阻害薬が中核症状治療の中心になる。

(認知症疾患治療ガイドライン2010 コンパクト版2012を参考)

推奨グレード 内容
A 強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる。
B 科学的根拠があり、行うよう勧められる。
C1 科学的根拠はないが、行うよう勧められる。
C2 科学的根拠がなく、行わないように勧められる。
D 無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないように勧められる。

アルツハイマー型認知症

A:ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン、メマンチン

血管性認知症

B:ドネペジル、ガランタミン、メマンチン

C1:リバスチグミン

レビー小体型認知症

B:ドネペジル、リバスチグミン、メマンチン

前頭側頭型認知症の行動障害

C1:SSRI

周辺症状(BPSD)に対する薬物療法

各症状と推奨度

焦燥性興奮

B:リスペリドン、クエチアピン、オラザピン、アリピプラゾール

C1:バルプロ酸、カルバマゼピン

幻覚・妄想

B:リスペリドン、オランザピン、アリピプラゾール

C1:クエチアピン、ハロペリドール

うつ症状

C1:SSRI、SNRI

暴力・不穏

C1:非定型抗精神病薬

不安

中等度から重度では推奨されない:ベンゾジアゼピン系薬物

B:リスペリドン、オランザピン ※不安に対する低用量のリスペリドン使用は、高齢の認知症患者に対してより安全性が高い

C1:クエチアピン

睡眠障害

C1:ベンゾジアゼピン系(非推奨)、リスペリドン(考慮してもよい)、ドネペジル・抑肝散(睡眠の質を改善するため考慮)

レビー小体型に特徴的な症状に対する薬物治療

レム睡眠行動異常症

C1:クロナゼパム、ドネペジル

パーキンソニズム

C1:レボドパ

起立性低血圧

C1:ドロキシドバ、ミドドリン、フルドロコルチゾン

便秘(消化管機能障害)

C1:緩下剤、モサプリド、ドンペリドン

注意したい相互作用

認知症に使われる薬剤については、それぞれの代謝酵素(CYP)を阻害したり、誘導したりする薬剤に注意するようにする。

CYP3A4阻害薬(イトラコナゾールなど)

ドネペシル、ガランタミンの作用増強・・・悪心や嘔吐の可能性

CYP3A4誘導薬(カルバマゼピンなど)では、作用の減弱を起こす。

CYP2D6阻害薬(キニジン、パロキセチンなど)

ドネペシル、ガランタミンの作用増強・・・悪心や嘔吐の可能性

リスペリドン、アリピプラゾール・・・効果増強による副作用リスク↑

CYP1A2阻害薬(フルボキサミン、シプロフロキサシンなど)

オランザピンの血中濃度↑

コリンに関わる薬剤と併用されていないか?

コリンエステラーゼ阻害薬は、中枢でのコリンの作用を強める働きがあるが、全身での作用もないわけではない。中枢性、末梢性の抗コリン薬との併用には注意したい。

つまり、抗コリン薬(トリヘキシフェニジル(アーテン)、ビペリデン(アキネトン)、ブチルスコポラミン(ブスコパン))などと併用することで、互いの作用を減弱する可能性がある。

薬理学を考えれば、相互作用は容易に予測されるが、思いのほかこれらの併用に関してはあり得る。薬剤数が増えたときには、実は互いに作用を打ち消しあっていて、無意味な服薬となっていることもあるから注意したい。

メマンチン(メマリー)の相互作用

メマンチンのNMDA受容体拮抗作用がドパミンの遊離を促進するため、レボドパなどのドパミン作動薬の作用を増強する恐れがある。パーキンソン症状を併発していて、レポドパ療法を行っている場合には注意したい。

反対にアマンタジン(シンメトレル)、デキストロメトルファン(メジコン)には、NMDA受容体拮抗作用があり、メマンチンとの併用でその作用が相加的に増強する。

まとめ

以上、認知症とその治療について概略をまとめてきましたが、大前提として認知症治療は「対症療法」であるということを忘れてはなりません。

特に、認知症はBPSDを含め、さまざまな症状を呈することから多剤併用になりやすいという側面があります。

事実、認知症をもつ高齢者の処方をみると、睡眠薬、抗精神薬、抗うつ薬など心理症状に対する薬剤、消化器異常などに対する消化器運動調整薬、緩下薬などが追加され、さらにパーキンソニズムに対する薬剤なども処方されることも少なくありません。

もともと高血圧、糖尿病、血管疾患などの慢性疾患をもつ患者においては、それらの治療薬も数種類処方されることになり、合計10剤以上処方されるケースも見受けられます。

そういった患者においては、いまある症状が原疾患によるものなのか、薬の副作用によるものなのか、非常に鑑別しにくくなっていることがあります。

実際、向精神薬を追加後に、反応性の低下や意欲喪失が起こり、日常生活が送れないほどになった患者を目にします。そして、その処方を再度見直すことで、劇的に状態が改善するケースに遭遇することがあります。

そういった状況を鑑みるに、認知症患者自身、そして家族への「全人的」なバックアップする体制・しくみが不可欠になるものと思います。

行き過ぎた薬物治療により、本来そこにあるべきだった人間としての尊厳や人生を失わせることはあってはなりません。

特に認知症の治療においては、西洋医学の得意な「数値化」ができない領域が非常に多く、医師にとっても手さぐり状態での治療が余儀なくされる現状があります。

そういった困難な状況で、「症状を見て、人を観ず」といった治療がなされると、気づけば本来の治療目的を忘れ、観察された症状をただ抑えることに傾倒してしまいがちです。

そういったことから、認知症の治療にあたる際には、広い価値観と見識、深い倫理観をもち、患者、そして家族の人生全体を考えた治療が望まれます。

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