神の式の使い方~薬物動態学の集大成~

kami

こんにちは。
今回のテーマを理解できれば、薬物動態の基礎はとりあえず完了です!
(復習はこちらから)

薬物動態学という学問は、「薬の効果と薬物血中濃度が相関する」というアイデアのもと発展してきた学問といえます。

そして最終目標は、個々の患者に対して適切な投与量をデザインするということになります。

前回に登場した式を使うと、それが可能になるのです。

「F × S × D / τ = Css.ave × CLtot」
(CLtot=kel × Vd)

実にシンプルな式ですね。

そもそも、生物のからだは非常に複雑なしくみから成りなっています。「吸収、分布、代謝、排泄」どの過程もミクロの視点でみるととてもに複雑です。

しかし、薬物動態学のスタートは、体を一つの大きな箱に見立て、マクロの視点から捉えたことからはじまります。
(これが1-コンパートメントモデルでしたね!)

薬物の血中濃度にフォーカスして、生体を可能な限りシンプルにしていった歴史でもあったのです。

そして、薬物動態学のひとつの「終着点」が今回使用する式だと思います。

では、実際にどう使えるのか?というのをみていきましょう。

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最適な投与量を予測する

やっぱりここはTDMの代表的な薬である「ジゴキシン」で説明していきます。

まずは目標設定からです。ジゴキシンの血中濃度は非常にシビアです。

インタビューフォームでは、「0.8~2.0ng/mL」という値が示されていますが、近年の報告ではさらにシビアになっています。

これまで有効とされてきた1.2ng/mL以上を維持した場合、0.5~0.8ng/mLで維持した場合よりも死亡率が有意に高くなると報告されました。
(RathoreSS et al : JAMA 289:871-878,2003)

これをうけて、現在では、ジゴキシンは”より厳密に”血中濃度を管理すべきという流れになっています。

以上を踏まえて、目標の血中濃度を「0.65ng/mL」に設定したい、とDrから要望があったとします。

患者背景は次のようになっています。

55歳女性、身長150cm、体重48kg、
腎機能は特に異常なし
しばらく前から足のむくみ、まぶたの腫れ、息切れを自覚。
うっ血性心不全のためジゴキシンが開始となる。

ジゴキシンのインタビューフォームから計算に必要な値をピックアップしていきます。

・消失速度定数(kel)
消失半減期:35~48時間なので真ん中の41.5時間とします。

kel=0.693 / t1/2なので

kel=0.693 / 41.5=0.0167(/hr)

・分布容積(Vd):9.51(L/kg)

・バイオアベイラビリティ(F):0.746

・投与間隔(τ)1日1回=24(hr)

・塩係数(S):1.0

・目標血中濃度(Css.ave):0.65ng/mL

では、これらを式に代入していきます!

Dose = (Vd × kel × Css.ave × τ) ÷ (F × S)
= (9.51(L/kg) × 48kg × 0.0167(/hr) × 0.65ng/mL × 24(hr)) ÷ (0.746 × 1.0)
= 159.4 μg
=0.16 mg

一部のパラメータは患者自身のものではありませんが、体重と目標血中濃度を知るだけで、適正な投与量を予測できるのです。

「飲んでみなければ分からない」から「理論的にはおそらくこうなるはず」というところまで引き上げてくれるのです。

この違いはすごく大きいですよね。あとは、実際の血中濃度推移をみながら微調整していけばよいのです。

服用後のフォローは?

ジゴキシンが定常状態到達時間は、t1/2 × 5 で求められるので41.5 hr × 5 = 8.6日程度となります。

よって、服用開始後は10日目以降に血中濃度を測定し、実際の結果を確認するのがよいでしょう。その実測値と予測した血中濃度との比を用いて、今後の投与量を調整をすることができます。

ちなみにジゴキシンは通常トラフ値(最低血中濃度)が測られるので、外来の場合は朝服用せずに測定することになります。

朝の採血が難しいときには、分布過程が終了したβ相移行、おおむね8時間以降を目安に測定します。(吸収・分布過程は個人差が大きく、予測が難しいため)

このあたりも、臨床に役立てる際には様々な周辺知識や配慮が必要になりますね。薬物動態学は「理論」からアプローチした学問なので、それをいかに現場に落とし込むか?というのが重要になります。

実際のTDMはコンピュータで行うことが多いですが、基礎理論はこの式を基にしているので、ぜひ理解しておく必要があります。

はい、それでは以上にて薬物動態の基礎は終了です。

質問などあれば出来る範囲で解説していきたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました!

【分かりやすい参考図書】

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コメント

  1. ワタナベヒデユキ より:

    上記の分布容積(Vd):9.51(L/kg)の数値9.51の導き方。
    分布容積の単位は、mlと思いますが、(L/kg)の単位の意味。
    以上、教えてください。

    • ワタナベヒデユキ より:

      返信用メルアドをまちがえました。
      訂正します。

    • しゅがあ より:

      分布容積を試験者の平均体重で割った値ですかね。

      体重をかけることで、各患者の仮想の分布容積を想定できるというものです。

      この数値に関しては、あくまで計算で使うパラメータとお考えください。

      インタビューフォームから引用しています。

  2. こんようやすのり より:

    同じ質問ですいません。
    分布容積の求め方がわかりません。分布容積(Vd):9.51(L/kg)が求められません。
    計算式教えてください

    分布容積
    5.1~7.4L/kg 4)
    小児(2~10歳)17L/kg1)、成人(20歳)8L/kg1

    ジゴシンのインタビューフォームには上記が載ってますが、これとは違うのでしょうか?

  3. 佐藤明秀 より:

    突然すみません。
    自分で、第二コンパートメントモデルの式を立て、エクセルで微分方程式を解こうと思うのですが、どのような薬物でもよいので、吸収速度定数、代謝速度定数、消失速度定数などのデータと、その薬の血中濃度の時間推移のグラフのデータがほしいです。
    そのような情報が載っているサイトなどを教えていただけないでしょうか。

  4. 佐藤明秀 より:

    突然すみません。
    薬物動態を学習しているのですが、どのような薬物でもよいので、
    吸収、代謝、排せつ速度定数などのデータ、その薬の体内血中濃度の時間経過のグラフのデータがほしいです。
    そのようなデータはどこで手に入りますか。
    よろしくお願いいたします。

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