トルサード・ド・ポワンツとは何か?QT延長のしくみから丁寧に解説!

薬学のなかでも難しい領域のひとつに「不整脈」があります。

「抗不整脈薬は、不整脈を起こす」と言われるように、使い方を間違えればあっという間に、患者の命にかかわる薬でもあります。

大学でも基本的な分類と薬理学については勉強しますが、なかなか詳しいところまでは理解できなかった方も多いのではないでしょうか。

今回は、不整脈の治療において、大きなキーワードである「QT延長」と「トルサード・ド・ポワンツ」についてまとめていきます。

薬理学の少し深いところまで突っ込んでいくと思うので、専門以外の方は理解の難しいところがあるかもしれません。

でも、基本的な知識からはじめて、なるべく分かりやすくすっきりしてもらえるように解説しようと思うので、頑張ってお読みいただければと思います。

では、はじめていきましょう!

スポンサーリンク

QT延長とは?

まずは、基本になる心電図の波形からみていきましょう。

sindenzu

QT延長というのは、図にあるようにQ→Tの間の間隔が伸びる現象のことを指しています。

では、これがどんな意味があるのか?

QT間隔とは、心電図波形のQ波の始まりからT波が終わりまでの時間のことです。

実際の心臓の動きで考えると、心室筋の興奮(脱分極)の開始から、興奮の終了(再分極完了)までの時間で、心室が収縮している時間を指しています。

ちなみに、この時間のことを「活動電位維持時間(APD:action potential duration)」ともよびます。(これからAPDという単語を使っていきます!)

つまり、QT延長はAPDが延長している状態なわけです。

トルサード・ド・ポアンツとは?

トルサード・ド・ポアンツ(torsades de pointes)は、フランス語で「ねじれ」を意味する言葉で、特徴的な多形性心室頻拍の一つです。

s-TdP

https://www.kango-roo.com

こんなふうに、頻拍中はQRS波形の振幅と形態が一拍ごとに変化し,基線を軸にねじれているようにみえることから、その名がつきました。

自然に停止することも多いですが,心室細動へ移行する危険もあり予後不良な病態です。

QT延長が起こると心臓は電気的に不安定な状態となり、トルサード・ド・ポアンツが誘発されると考えられています。

トルサード・ド・ポアンツの原因はほかにも、低マグネシウム血症や低カリウム血症などがありますが、その直接的な兆候として「QT延長」が重要視されています。

QT延長はどのように起こるのか?

それでは、QT延長がどのような仕組みで起こるのかをみていきましょう。

まずは、心筋細胞のイオンの流れと心電図との関係について把握しておく必要があります。

心室筋での活動電位と実際に観察される心電図波形はこちらの図のような関係になっています↓

denkai-sinden

では、活動電位のはじめからおわりまで順を追ってみていきましょう。

☆第0相
外部からの刺激(刺激伝導系からの電流の流入)によって、Na+イオンがNaチャネルを介して短時間で一気に細胞内に流入します。内向きNa電流(INa)が発生して、細胞内の電位が高まり「脱分極」をおこす時間です。この電流が心筋細胞を次々に伝播し、Q波、R波、S波を形成します。

☆第1相
Naチャネルが閉じて脱分極が終了し、一過性にK+イオンで出ることで膜電位がわずかに下がる時間です。(外向きK電流Ito

☆第2相
Na+に続いて、L型Caチャネルを介してCa2+イオンが流入し、内向きCa電流(Ica)が発生する時間です。細胞内に流入するCa2+イオンと流出するK+イオンとのバランスで維持されている時間でプラトー相ともいいます。電位変動がほとんどないため心電図波形のレベルが変化しない ST区間にあたります。

☆第3相
急激な再分極時間にあたり、Ca2+イオンの流入が終わるとともにK+イオンが一過性に多量に流出することで起こり、T波を形成します(外向きK電流IKr・IKs)。T波の前半部はK+が出始めてもまだCa2+の流入が完全には終わっていない区間にあたるので傾斜がなだらかで、正常な T 波は左右が非対称形になります。

☆第4相
細胞が元の分極状態になっている時で、拡張期にあたります。内向き整流性KチャネルによりK+が流出して、外向きK電流(IK1)が発生します。これにより静止膜電位が維持されます。

これが心室筋の収縮から拡張までの大まかなイオンチャンネルの流れです。

内向き整流性Kチャネルはなぜ「内向き」なのか?

第4相では、細胞内からKイオンが細胞外へ常に流れることで静止膜電位を維持しています。ここで、なぜ外に流れているのにチャネルの名前が「内向き整流性」という名前がついているのか気になりますよね?

簡単にいうと、このチャネルはKイオンを内向きと外向きどちらにも通過させることができるのですが、本来は内向きに流す性質のほうが強いためにこのように命名されたそうです。

ただ、静止膜電位は-80mVから-90mVに保たれていて、Kイオンの平衡電位は-96mVと比較すると少し高い状態に保たれています。そのために、Kイオンは内から外に少量ずつ流れ出てしまうわけです。

ただ、もし膜電位が-96mVより下回ることがあれば「内向き整流性」という名のとおり、このKチャネルからは勢いよくKイオンが外から内に流れていくことになります。

※ただ実際には静止膜電位は脱分極による上昇と再分極により静止膜電位に落ち着くため、-96mVよりも下回ることは少ないので、この命名はややこしいことには変わりないです(笑)

QT延長のメカニズム!

ようやく本題に入れるわけですが、ここからはQT延長が発生するしくみについていくつかご紹介していきます。

QT延長は、主に第3相の再分極の遅延や第2相の延長に起因します。

前者ではK+イオンによる外向き電流の遮断、後者ではNa+やCa2+による内向き電流の活性化が関わっています。

例として、先天性QT延長症候群という病態では、心筋細胞のイオンチャネルや細胞膜タンパクにかかわる遺伝子の異常(LQT:long QT syndrome type 1~13)が認められています。

最も影響を与えるKチャネルをおさえろ!

理論上、QT延長に最も影響を与えるとされているチャネルは、再分極に関わっている遅延整流性Kチャネルです。

これにもいくつか種類があって、各々がチャネルが発生させるK電流(IK)は超急速(IKur)、急速(IKr)、緩徐(IKsの3つに大きく分類されています。

このうち急速(IKr)を発生させるKチャネルがQT延長に強くかかわっているとされ、この遮断を起こす薬剤がQT延長を起こしやすいと考えられています。

このIKrを生み出すKチャネルは、hERGという蛋白質で構成されていて、薬物との結合や細胞外のK+濃度低下に対して敏感であることが知られています。

hERGチャネルに関与する薬剤

下記の薬剤は、hERGチャネルのポア領域(イオンの通り道)に存在するアミノ酸残基(Phe656、Tyr652など)に結合して、IKrの発生を阻害することが報告されています。

⇒シサプリド(販売中止)、キニーネ塩酸塩水和物、キニジン硫酸塩水和物、ジソピラミド、ゾルピデム酒石酸塩、フルコナゾール、アトモキセチン塩酸塩、トラゾドン塩酸塩など。

一方、hERGチャネル蛋白質の細胞内輸送を阻害し、hERGチャネル数を減らす作用がある薬剤もあります。これにより、心臓の再分極予備能が低下して、QT延長の誘発を助長すると考えられます。

通常、正常な心臓ではKチャネル数は機能維持に必要な数の2倍以上存在しているとされていますが、下記の薬剤によりその予備能が低下してしまう恐れがあります。

⇒プロブコール、ペンタミジンイセチオン酸塩、三酸化ヒ素、デュロキセチン塩酸塩など

また、hERGチャネルの阻害とhERG輸送の障害の両方に関与する薬剤として、フルコナゾール、デシプラミン、ベプリジル塩酸塩水和物、ベルベリン化合物、ドネペジル塩酸塩などがあります。

このように、薬剤性QT延長はIKr遮断、つまりhERGチャネル阻害に起因すると考えられており、日米欧では新薬開発においてhERGチャネルに対する安全性試験(日本ではICHS7B試験)の実施を義務付けるようになりました。

構造的な共通点はあるか?

IKr遮断作用のある薬剤の構造式をみると、ピペリジン環やピペラジン環を有している薬剤が多いことに気づきます。

piperazinpiperizin

ちなみにフェノチアジン系薬においては、QT延長の誘発頻度はピペリジン系>プロピルアミン系(脂肪族)>ピペラジン系であるとされています。

はっきりとした因果関係が示されているわけではありませんが、目安として頭にとどめておいてもよいでしょう。

QT延長を起こしにくい薬剤の特徴

NaチャネルおよびL型Caチャネルの遮断は、QT延長に対して抑制的に働くことが知られています。

つまり、IKrやIKSの遮断作用をもつ薬剤であっても、それらのチャネルを遮断する作用を併せ持つ薬剤はQT延長を誘発しにくいと考えられます。

特にCaチャネル遮断によるQT延長抑制効果は強いとされており、抗不整脈薬でみるとベラパミル塩酸塩はIKr遮断作用と強力なICa遮断作用をもち、QT延長をほとんど起こさないことが知られています。

アミオダロン塩酸塩もIKrおよびIKSの遮断作用を有しますが、Ca2+流入の直接的な抑制(急性作用)とCa2+の密度減少(慢性作用)によるICa遮断作用を併せ持つために、他のⅢ群の薬剤と比較してTdPの発現率が低いとされています。

一方、販売中止となったスパルフロキサシンは、L型Caチャネルの不活性化を遅らせる結果、ICaを増大させてQT延長を誘発することが報告されています。

IKrとIKSの関係も一部知られており、選択的IKr遮断薬(ソタロール塩酸塩など)は、頻脈時より徐脈時に強い効果が表れて著名なQT延長とTdPを起こしやすい特性(=逆頻度依存性ともいう)が知られています。

ゆえに、選択的IKr遮断薬はQT延長を起こす危険性が高いとされていますが、IKS遮断を併せ持つと、逆頻度依存性が緩和されてTdPの危険性は低くなることも知られています。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

心電図の基本的な波形から、心収縮の簡単な流れとQT延長の発生機序についてみてきました。

もちろん不整脈は、この他にもさまざまな種類と分類がありますが、今回はそのなかでも特に危険なトルサード・ド・ポワンツ(TdP)について深堀りしてみました。

ひとくちに抗不整脈薬といっても、遮断するイオンチャネルの種類によってその効果と特徴は大きく異なっており、対応できる不整脈も異なります。

副作用として「不整脈」をもつ薬剤は少なくありませんが、それらの薬剤も同様に心臓のイオンチャネルに何らかの影響を及ぼしているかもしれません。

詳細なメカニズムの研究が進めば、hERGチャネルに対する安全性試験のように、あらかじめ副作用リスクを予測した新薬開発も可能になるでしょう。

他の重大な副作用についても、「薬理学」の力で未然に防げる副作用もどんどんでてくるかもしれません。非常に興味深い分野ですね。

今回の内容で、イオンチャネルと不整脈との関係について少しでもご理解の助けになれば幸いです。各チャネルの機能がさらに解明されれば、より戦略的な薬物治療が可能になるかもしれませんね。

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!

スポンサーリンク

お役にたった時のポチっとシェアボタン

フォローはこちら!

コメント

  1. 未来思考 より:

    お久しぶりです。
    抗認知症薬でもQT延長症候群が問題となることがあるようです。
    除脈性不整脈はわたくしも現場で確認しています。
    多剤併用されている高齢者の方も多いですが、思わぬ形で心臓に悪影響を及ぼしている可能性があるかもしれませんね。
    QT延長症候群の説明はここが一番わかりやすかったです。感謝感謝☆

    • しゅがあ より:

      お役に立てて光栄です!

      副作用対策の基本的な戦略は「アクションとその結果の時間軸を整理する」ということに尽きます。

      何かの薬剤を追加して、何らかの症状が起こった、のであれば、まずはその薬剤の副作用を疑うべきです。

      当たり前のことですが、これが見過ごされて今のポリファーマシーが生まれたという側面もあるはずです。

      アクションの前後を徹底的に見極めて、リスクとベネフィットを評価しプランを練るということが、あまりにも「テキトー」なケースが多いのではないでしょうか。

コメントはこちらから

メールアドレスが公開されることはありません。

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)