今回は書評の記事になります。
本のタイトルは「病気」と「健康」の法則(医師 ロバート・ハシンガー)。
なぜこの本を手にとったのかというと、このロバートさんの経歴がすごく興味深かったからです。
元々は、ドイツの大学病院で脳外科医をしていて、その時に西洋医学の限界を感じ、統合医療の道を究めていった異色の医師です。
なぜ補完・統合医療かというと、彼の家庭環境と生い立ちにルーツがあるのですが、気になる方はぜひ本を手にとってみてください。
ちなみに、彼はホメオパシーという分野の第一人者です。
この言葉を聞いて、すぐに悪いイメージを抱いてしまうような西洋医学至上主義のお堅い方もいるとは思いますが、そういう人も多くのヒントが得られる本かと思うので一度目を通してもらえれば。
では、備忘録という意味も込めて、自分が「科学的な視点」から大切だと思ったことをまとめたいと思います。
目次
病気はATPが欠乏して起こる
彼の考えでユニークだなぁと思ったのは、「エネルギー」という観点をすごく強調しているところです。
で、なんだかエネルギーという言葉をきくと「胡散くさい」「宗教くさい」などという印象がどうしてもでてきてしまうものですが、あくまで彼が前提としているのは物質としての「ATP」、そう、アデノシン三リン酸です。
これは、彼が西洋医学をバックボーンにもっていて、ふわふわした話が苦手な人もある程度相手にできるようにする意図があったのかもしれません。
それはそうと、何らかの病気や症状が起こったところではATPは不足しているのだという主張です。
厳密な話はまあおいておいて、その根拠となるような例がいくつか紹介されています。
なぜ寒い日に身体を冷やすと風邪を引くのか?
この理由として、下記のような説明をするわけです。
生命によって”体温”を維持するというのは、最も優先されるべき項目である。よって、身体が冷えたときには、エネルギー(ATP)は熱を産生するために多くが消費される。これにより、免疫系にあてられてたエネルギーが相対的に減って感染を起こしてしまうのだ。
僕は、この話は特に異論なく納得できますし、すごく理にかなっていると思いました。
他にもいくつかこういった病気とエネルギーにおける関係性について例示されていて、いかにこのエネルギーを高いレベルで維持できるか?ということが大切かを訴えています。
健康になりたければ呼吸を整えろ
これは、特に目新しい話ではないのですが、ヨガの世界なんかでも呼吸法というのは最重要項目になっていて、身体の健康と呼吸の関係性というのはすごく深いのなのです。
この点に関してロバート医師は、先ほどのエネルギーを産生するという観点から分かりやすく説明しています。
C6H12O6(グルコース)+ 6O2(酸素)+ 38ADP(アデノシン二リン酸 + 38Pi(リン酸)→6CO2(二酸化炭素) + 6H2O(水) + 38ATP(アデノシン三リン酸)
この式は、もしかすると高校で習った記憶がある人もいるかもしれない。
体内でエネルギーを産生するためには、「栄養」と「酸素」が不可欠である。この酸素を補給するのが「呼吸」であり、呼吸を整えることと健康には大きなかかわりがある。
そして、呼吸は運動や感情(精神)の変化によって大きく変化をする。
だからこそ、これらを整える治療は、実際に効果を発揮するのだ。
というような論法で話を展開していきます。
ふむ、なるほどなと思いました。
これまで、なぜ精神療法や運動療法といったものが病気を治すのか?ということについては、その理屈という面ではあまり語られてこなかったように思います。
この本では、西洋医学という視点も忘れずこういう論理が語られているので、腑に落ちる人もきっといるのではないかな?と思います。
抗生剤は健康を破壊する
この件に関しては、この本を読むまでもなく僕自身感じていたことなので、改めて納得した感じでした。
簡単にいってしまえば、外来で抗生剤を処方するなと(笑
すべての医師たちよ、安易に抗生剤を処方するな、ということを言っています。あなたたちは、患者を不健康にしたいのですか?という痛烈な批判が込められています。
抗生剤がなぜ人の健康を壊すか?ということについても、彼なりの根拠をもって訴えています。
ひとつは、抗生剤が免疫システムの形成する機会を奪うという理由です。抗生剤が体内に侵入した細菌をすぐに殺してしまうことで、本来、最近と戦うことで免疫を獲得するはずだった貴重な機会を失うということです。
また、抗生剤が腸内の細菌を駆逐してしまうことで、腸管の消化・吸収システムがボロボロに破壊されてしまうという理由があります。
腸内細菌は、人間の消化臓器の一部といってもよいほど大切な役割を担っているため、それが破壊されれば、消化効率が大幅に落ちて、エネルギーも産生できなくなってしまいます。
この腸内細菌叢の役割については、最近よく話題にはなっていますが、健康を維持するという観点からみると、非常に重要なウェイトを占めており、それを簡単に破壊する抗生剤は非常に危険なものである、ということは言うまでもありません。
とはいいつつも、ロバート医師はすべての抗生剤を否定しているわけではなくて、あくまで厳格に使うべきと言っているのであって、ピロリ除菌など明確な目的がある場合にはその限りではないでしょう。
とりあえず、本書では「抗生剤のリスク」について、繰り返し伝えられていたので強調しておきたいと思います。
「愛される」効果は抗うつ剤の比ではない
本書にこんな文があります。
生体はメンタル、感情、肉体というレベルの違う要素で構成されていると考えたとき、「シミリア・シミリブス・クーラントゥル」という概念がとても重要な意味をもってきます。
シミリア・シミリブス・クーラントゥルというのは、「似たものが似たものを癒す」という意味のラテン語で、もう少し分かりやすくいうと「その病気と治療法との間に何かしかの類似性がなくてはいけない」ということになります。
これは、今後の医療にすごくヒントになると感じた一節で、何をいっているかといえば、全部薬で治そうとするな、と簡単にいうとそう言っています。
例えば、包丁で指を深く切ったときには精神論がどうとかではなく、外科的に縫わないと傷口は閉じません。また、脳血管が詰まったときには、愛情がどうのこうのではなく、カテーテルやらで血栓溶解薬やらですぐに対処しなければ死んでしまいます。
一方で、精神的な疾患やら、主観的に感じる痛みなんていうものはどうだろうか?
そうなると、あれっ?という疑問が生じてきます。
精神的なものなのに、「薬」という物質で対応しようとしていませんか?ということです。
これが病気と治療との間にある「類似性」というものなのです。
今の西洋医学には、この観点がまったくありません。科学が進歩している一方でどこか行き詰まりを感じている人も少なくないはずです。
この行き詰まりを何とかしていくのに、僕はこの考え方がすごく重要になるだろうと素朴に感じるのです。
まとめ
最後に非常に示唆に富んだ文たちを紹介して、今回の記事を終わりたいと思います。
治癒とは病気の根源的な問題を解決し、症状が繰り返されなくなることにほかなりません。薬をやめると症状が戻ってくるのなら、それは治癒ではなく、症状を抑えてるにすぎないのです。[p51]
病気の症状は、とても合理的なかたちで現れているのです。偶然に歯が痛むわけでもなければ、神様があなたを罰するために頭痛を起こしているわけでもありません。[p67]
西洋医学とは「どのようにして症状が起きたのか」とか「どのようにすれば症状が治まるのか」という疑問には答えられるけれども、「そもそも、なぜ?」という根本的な疑問には答えられない医療なのです。[p188]
ホメオパシー参考図書
コメント
いい本を紹介してくださってありがとうございます。共感することばかりです。薬剤師をしていますが、薬は体を治すものではないと年々感じています。「体内に薬が入ってくると、とにかく薬を排除する方向に働く」「非物質的なライフフォースに障害が起きた段階でその問題に対処すれば病気は簡単に治るが、進行すると治すことがむずかしくなる」本当にそうだと思います。ホメオパシーはインチキ療法の様に言われていますが、今ある医薬品で、本当に根本治療につながる薬がどれだけあるでしょうか。科学の装いだが臨床試験も製薬会社主導、生のデータにはアクセスできないなど、闇が大きすぎます。「治癒」とはについて考えさせられました。
コメントをいただきありがとうございます。
最近読んだ本に書いてあった言葉に「科学は数ある信仰の1つである」というものがありました。僕ははっとさせられたのですが、しろちゃんさんも何か感じるものがあるかもしれません。
一般にエビデンスや最新科学だ、なんて言われているものも、その方法論なり結果なり実験者なりを「疑いなく信じている」わけですから、宗教と何も変わりないんですよね。
それはそれでいいのですが、そういう人達が他人が信じているものを馬鹿にするのはちょっと筋は違うと思います。
サミュエル・ハーネマン氏がホメオパシーの創始者だそうですが、ホメオパシーの効果については賛否両論あるとしても、その医学に向かう姿勢そのものはすごく学ぶべきものがあるなと感じました。
彼の著作を参考図書に追加しておきますので、少し高いですがご興味があれば目を通されてみてください。