【記事専門度】★★☆
国立感染症研究所は2014年1月6日、札幌市でタミフル耐性A/H1N1pdm09ウイルスが検出されたと発表した。2013/14シーズンに、札幌市の患者から分離されたA(H1N1)pdm09ウイルス5株について、札幌市衛生研究所が遺伝子解析による薬剤耐性マーカーの1次スクリーニングを行ったところ、5株すべてがH275Y変異を持っていることが明らかになった。
さらに国立感染症研究所で、抗インフルエンザ薬であるタミフル、ラピアクタ、リレンザ、イナビルに対する薬剤感受性試験を行った結果、H275Y変異が確認された5株は、いずれもタミフルとラピアクタに対して耐性を示すことが確認された。一方、リレンザおよびイナビルに対しては感受性を保持していた。
このニュースについて
ちょっと薬学的な視点もいれながら
整理していこうと思います。
まず、この「耐性インフル」って
どんなものかというと、
「NA蛋白」に変異を起こしたインフルエンザウイルスです。
NAとはノイラミニダーゼという
ウイルス自身の蛋白質で、
タミフルの標的はこのノイラミニダーゼです。
そして、H275Y変異というのは、
NA蛋白質の275番目のアミノ酸が
ヒスチジンからチロシンに変わってしまったウイルスです。
たったひとつのアミノ酸が
違うものに置き換わってしまうだけで、
タミフルに対する感受性は500倍以上低下します!
今回は、このようなタミフルの
効かないウイルスが国内(札幌市)で
発見されたということでニュースになりました。
ところで、インフルエンザの薬は
現在(H26.2)、下記の4種類が承認されています。
それぞれに特徴があり、
使い方が大きく違いますね。
一回の吸入で治療が完結する
”イナビル”は画期的でしたよね。
今回注目したいのが、
製剤的なお話しではなく、
薬の構造式=薬のかたちについてです。
最初のニュース記事では、
”H275Y変異が確認された5株は、
いずれもタミフルとラピアクタに対して耐性を示すことが確認された。
一方、リレンザおよびイナビルに対しては感受性を保持していた。”
と報告されています。
それぞれの構造式は下のように
なっています。
【タミフル(オセルタミビル)】
【ラピアクタ(ペラミビル)】
【リレンザ(ザナミビル)】
【イナビル(ラニナミビル)】
どうでしょう?
それぞれの”かたち”は似ている
と言えば似ているという印象を受けます。
今回の耐性インフルでは、
タミフルとラピアクタに耐性があり、
イナビルとリレンザには感受性があるということでした。
本当は、構造式を見た上で
がっちりと説明できると思ったのですが、
意外にタミフルとイナビルの構造式は違っていました。。。
なので、ひとつだけポイントを!
実は、イナビルの活性代謝物と
リレンザの構造式を比べると、
左:リレンザ 右:イナビル(活性代謝物)
これ、実はほぼ同じなのです。
活性体の構造が共通ということは、
耐性ウイルスも共通するということです。
今回の耐性インフルは、
タミフルに耐性をもっていましたが、
リレンザ、イナビル(構造ほぼ一緒)には感受性がありました。
逆に、リレンザに耐性をもつ
ウイルスが現れたら、イナビルにも耐性を
もつということが考えられます。
実はこれって「耐性」という面だけでなく、
薬剤アレルギーでも言えることです。
アレルギーは薬の形に反応するので、
リレンザを吸入してアレルギー症状を
起こした患者ではイナビルでもアレルギーを起こすでしょう。
そのような患者には、構造式の違う
タミフルを使うべきであるということが
理解できるようになります。
「薬のかたち」ってなかなか
普段の現場で意識することって
難しいと思います。
ただ、その知識が役立つ場面って
考えてみると実は結構あります。
・副作用(特にアレルギー性のもの)
・相互作用(キレート形成、代謝など)
・耐性菌や耐性ウイルスの予想
・配合変化の理解
こういう分野こそ、
薬剤師の出番なのですが、
なかなか活かしきれていない現状もあります。
少しずつですが、
こういった「化学者」としての
視点も取り戻していけたら楽しいなと思います。
ちょっと話が逸れてしまいました^^
何はともあれ、耐性インフルといっても
薬の効果は弱まりますが、身体の免疫は働くのです。
重要なことは、
クスリはリスクと言われるように、
必ずデメリットが伴います。
耐性インフルに対しては、
タミフルを使っても効果がないわけでなので、
分かっているなら使わないことが賢い選択です。
これからは特に、耐性ウイルス、
耐性菌などには敏感にアンテナを
張っておくことが不要な薬物使用を避けることにも繋がります。
今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました。
では!