SU薬(スルホニル尿素薬)の作用機序

SU薬は「インスリン分泌促進薬」に分類され、膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促進させます。

近年登場したDPP-Ⅳ阻害薬により、糖尿病治療の選択肢が広がり、以前よりもSU薬の使用頻度は少なくなっています。

しかしながら、SU薬が示す強力な血糖降下作用は、現在の糖尿病治療においても重要な位置づけにあります。

今回は、インスリンの分泌機構からSU薬の作用機序、各薬剤の違いなどについて徹底マスターしていきましょう!

まずはインスリン分泌のメカニズムから学ぼう!

膵β細胞から分泌される「インスリン」は、血糖値の恒常性の維持に不可欠です。

インスリンはグルコースにより分泌が制御されており、現在考えられている主要な経路はKATPチャネルを介する経路です。

英語では、KATP channel-dependent pathway、または triggering pathwayといわれています。

この経路が現在の治療薬のターゲットにもなっています。

なので、まずはこのKATPチャネルを介した経路について詳しくみていきましょう!

KATPチャネルとは

はじめに、KATPチャネルの構造からみていきましょう。

KATPチャネルは2種類のサブユニットからなります。簡単にいうと、サブユニットとはタンパク全体を構成する大きな部品・塊のことです。

図をみた方がはやい!ですよね。イメージはこんな形です↓

s-Katp

SUR1サブユニット:ABCトランスポータースーパーファミリーに属し、SU薬など様々な薬剤との結合部位をもつ

Kir6.2サブユニット:K+チャネルに属し、チャネルポアを形成する

この2つのサブユニットが4つずつ、合計8つが結合したヘテロ8量体構造になっており、チャネルの機能を発揮します。

こういうKATPチャネルが膵β細胞にはあるんだということをイメージしておいて、次に膵β細胞の簡略図をみてみましょう。

s-su

何も刺激がない状態では、膵β細胞のKATPチャネルはある一定の頻度(=開口率)でチャネルの開口と閉鎖を繰り返しています。

この機能により、細胞内から細胞外へカリウムイオン(K+)が一定量放出されることで細胞内・外のK+濃度平衡が保たれています。

何らかの刺激が加わって、この均衡状態が崩れることでインスリンは分泌されます。

では、図をみながらインスリンが分泌されるまでの経路を順に追っていきましょう。

グルコースによるインスリンの分泌

①グルコースが糖輸送担体(GLUT2)を介して細胞外から細胞内に取り込まれます。

②解糖系およびミトコンドリア内での酸化的リン酸化によりATPが産生されます。(図の「代謝」の過程)

③結果的に細胞内のATP濃度が上がります。一方で、生理的条件では細胞内のADP濃度はほとんど変化しないので、「ATP/ADP比」が増大します。

④ATP/ADP比の増加によりKATPチャネルの開口率が低下します。

⑤細胞外へのK+排泄が滞り、細胞内にK+が溜まることで細胞膜の電位(静止膜電位:-70mV)が上昇していきます。

⑥ある一定の電位(-40mV前後)にまで膜電位が上昇すると、その刺激に反応して電位依存性Ca2+チャネル(VDCC)が開口します。

⑦もともと細胞内と細胞外のCa濃度には非常に大きな差(細胞内:約0.0001mM、細胞外:約2mM)があるために、VDCCが開口すると細胞外から細胞内にCa2+が流入します。

⑧細胞内へのCa2+流入刺激により、細胞内にあるインスリン分泌顆粒が細胞膜に融合して顆粒中のインスリンが血中に放出されます。


以上、グルコースによるインスリン分泌の大まかな流れになります。

ここで気づくことは、KATPチャネルには重要な2つの役割があるということです!

ひとつが、β細胞内でのグルコース代謝変化、つまりATP/ADP比を感知する「代謝センサー」の役割です。

もうひとつが、カリウムイオンの力を借りることで、グルコース代謝変化を電気的信号(β細胞膜の電位変化)に変換する「信号変換器」の役割です。

これらの機能により、単純なグルコース濃度の変化からインスリンを分泌させるまでの橋渡しをしているのです。

つまり、KATPチャネルはインスリン分泌において必須の鍵分子として機能しているのです。そして、このKATPチャネルをターゲットにして、見事成功したのがSU薬だったのです!

SU薬のインスリン分泌メカニズム

では本題!、といってもほとんどの説明はもう終わっているのですが笑、SU薬の作用機序について少し細かいところまでみていきましょう。

まずSU薬という命名は、その薬剤構造に含まれるSU構造に由来します。

s-sulist
A:グリベンクラミド、B:トルブタミド、C:グリメピリド、D:グリクラジド

このSU構造が、KATPチャネル「SUR1」と特異的に結合することが知られています。

SU薬は膵β細胞膜のSUR1に直接結合し、KATPチャネルを「閉口」させます。

これにより細胞膜の脱分極が生じ、電位依存性Ca2+チャネルが開口し、Ca2+イオンが細胞内に流入します。

ここから先は、グルコースによる生理的なインスリン分泌と共通の経路になります。

つまり、ATP/ADP比に関係なく、SU薬はKATPチャネルに結合し閉口させることにより、インスリン分泌を誘導するのです。

【SU薬によるインスリン分泌経路】
s-sugrinide

一方、ベンズアミド構造をもつSU薬はSUR1だけでなく、SUR2AやSUR2Bなどにも結合することが示されています。

これらの違いが、各薬剤の組織特異的な薬理作用のメカニズムの一因であると考えられています。

各臓器のKATPチャネルの機能

Kir、SURにはアイソフォームがあり、その各臓器に存在するKATPチャネルではその組み合わせが異なります。

・膵β細胞(Kir6.2/SUR1):インスリンの分泌調節

・心筋(Kir6.2/SUR2A):虚血時の心筋保護作用

・骨格筋(Kir6.2/SUR2A):糖取り込み調節、疲労時の骨格筋保護

・平滑筋(Kir6.2/SUR2B):平滑筋のトーヌス(筋緊張)調節

・血管平滑筋(Kir6.1/SUR2B):血管拡張・収縮調節

・大脳黒質(Kir6.2/SUR1):低酸素時の痙攣抑制

・視床下部(Kir6.2/SUR1):低血糖時のグルカゴン分泌調整

SUR2Aにも結合すると・・・?

心筋のKATPチャネル(SUR6.2/SUR2A)は通常はほとんど閉口されています。

しかし、心筋が虚血状態(心筋内ATP濃度低下)となったときには、KATPチャネルが開口することで心筋収縮力を低下させて心筋を保護します。

これを、虚血プレコンディショニングといいますが、心筋のSUR2Aに親和性をもつSU薬は心筋KATPチャネルの開口を阻害し、心筋障害を助長してしまう可能性があります。

実際、グリベンクラミドは膵臓と心筋のSURに強く結合するため、狭心症や心筋梗塞などのリスクが高い症例では使用を控えるべきという指摘もあります。

SU薬の種類と特徴

SU薬は1956年に第1世代のトルブタミドが登場し、その後トルブタミドに比べて効力比が200倍~400倍もあるグリベンクラミドなどの第2世代のSU薬が開発されました。

現在では、膵臓だけでなく肝臓や骨格筋などにも作用し、強力かつ副作用の少ない第3世代のグリメピリドが多用されています。

SU薬の効果の違いは、膵β細胞のSUR(スルホニル尿素受容体)への「結合力の強さ」や「代謝時間(半減期)」の差により決定されます。

第1世代SU薬

・トルブタミド(ラスチノン®)

半減期:5.9h、作用時間:6~12h、250~1500mg/日

・アセトヘキサミド(ジメリン®)

半減期:3.2h、作用時間:10~12h、250~1500mg/日

・クロルプロパミド(アベマイド®)

半減期:33h、作用時間:24~60h、100~500mg/日

・グリクロピラミド(デアメリンS®)

半減期:no data、作用時間:6h、250~500mg/日

第2世代SU薬

・グリブゾール(グルデアーゼ®)

半減期:no data、作用時間:12~24h、125~500mg/日

・グリベンクラミド(オイグルコン®、ダオニール®)

半減期:2.7h、作用時間:12~24h、1.25~7.5mg/日

心筋のSUR2Aにも強く結合するため、狭心症や心筋梗塞の患者では死亡率を有意に高めるという報告があります。

・グリクラジド(グリミクロン®)

半減期:6~12h、作用時間:6~24h、40~120mg/日

膵β細胞のSUR1への選択的が高い薬剤です。心筋のSUR2Aへの親和性が低く、心血管合併症のある糖尿病患者にも望ましい薬剤といわれています。

また、フリーラジカル捕捉による血小板凝集抑制作用や抗酸化作用も報告されており、動脈硬化の抑制効果も期待されます。

第3世代SU薬

・グリメピリド(アマリール®)

半減期:1.5h、作用時間:6~12h、1~6mg/日

グリベンクラミドに比べて、インスリン分泌促進作用が弱く、持続時間が短いのにもかかわらず同等の血糖降下作用が報告されています。

その理由として、インスリン抵抗性改善作用を有していることが推測されています。

肝臓の糖取り込みの促進、糖放出の抑制、また脂肪細胞における糖取り込みの促進などが考えられています。

これらを膵臓以外の臓器への作用という意味で「膵外作用」とよばれ、これにより低血糖が少ないにもかかわらず、良好な血糖管理が得られます。

心筋のSUR2Aには弱い親和性がありますが、グリベンクラミドと異なり心筋細胞のミトコンドリア膜のKATPチャネルには作用しないため、心血管リスクは少ないと考えられています。


以上、インスリンの分泌機構からSU薬の作用機序、各薬剤の特徴についてまとめました。

皆さまの知識の整理に役立てば幸いです。

参考、図引用:月刊糖尿病 2009.7(医学出版)、類似薬の使い分け(羊土社)

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コメント

  1. ひのくにノ薬局薬剤師。 より:

    はじめまして。いまSU薬をまとめてまして、この記事のSU薬はよくまとまっているし、とても見やすくて助かります。参考にさせていただきます(‘◇’)ゞ

    • しゅがあ より:

      山本さんへ

      コメントをいただき光栄です!
      コラムやブログを拝見し、いつも勉強・参考にさせていただいております。
      山本さんの薬学的なアプローチや哲学的な考え方などは、新しい視点の発見の連続です。

      これからもお忙しいとは思いますが、コラム執筆など頑張ってください!
      楽しみにしています^o^

  2. ひのくにノ薬局薬剤師。 より:

    しゅがあさん、ありがとうございます。がんばりますよ(*^^)v
    しゅがあさんも若いのによく勉強してますね。
    「薬学」という言葉が響かないこの現状をなんとか打破していきましょう!

    • しゅがあ より:

      なかなか難しい現状かと思いますが、できることから、たとえ微力であっても頑張っていきたいですね^^
      有難いお言葉ありがとうございました!