<トリカブトとアコニチン(成分)>
<フグとテトロドトキシン(フグ毒)>
トリカブト保険金殺人事件について世界仰天ニュースでやってましたね。
これって、すごく巧妙なものにみえますが、普段一般の人が飲んでいる風邪薬やアレルギーの薬も全く同じことが起こっているのです。
事件では、ナトリウムチャネルってのを標的(ターゲット)に考えて2種類の毒を組み合わせたわけです。
ナトリウム(Na)は身体にとって最も大切な金属イオンのひとつです。
身体の機能はすべてといっていいほど(特に神経で)、このNaイオンが生み出す電気によって動いています。
Naイオンが、ナトリウム(Na)チャネルっていう穴を通って、細胞の外から中に入り込むことで電気が流れるのです。
トリカブトに含まれているアコニチンっていう成分は、このナトリウム(Na)チャネルをガバっと開いちゃうわけです。
いっぱいNaイオンが流れすぎると身体のいろんなところに異常がでてきます。
具体的には、
10~20分以内の初期:口腔の灼熱感、手足のシビレ、めまい、発汗。
↓
中期:嘔吐、腹痛、下痢、嚥下困難、起立不能、不整脈。
↓
末期:血圧低下、ケイレン、呼吸麻痺、死に至る。
致死量で治療しない場合、摂取後24時間以内に死亡している例が多い。
次に、フグの毒「テトロドトキシン」は、逆にNaチャネルからNaイオンが通るのを邪魔するんですね。これ単独で使用すると、神経の伝達ができなくなって「麻痺」が起こります。
身体に入ってしまうと、こういう経過をたどります。
指先や口唇部および舌端に軽い痺れ。目眩により歩行困難。頭痛や腹痛の場合も有り。
↓
運動麻痺が進行、嘔吐、知覚麻痺、言語障害、呼吸困難、血圧降下。
↓
全身の麻痺症状、骨格筋の弛緩、呼吸困難及び血圧降下が進行。
↓
意識の消失、呼吸停止。死亡。
どちらも最後は「死亡」になっていますが、これ2つの毒を一緒に飲んだ人はなんの症状もなくピンピンしているわけです。(ただし、厳密に飲む量を考える必要があります!)
2つの毒がお互いに「解毒薬」の関係になるわけです!
では事件に戻りますが、この2つのアコニチン(トリカブト)とテトロドトキシン(フグ毒)を一緒に飲ませたんですね。難しいのは2つの量をどう組み合わせるか?です。
どちらか一方が多くても少なくてもだめ。
なぜなら、2つがちょうどよく拮抗しないと(お互いのバランスがとれないと)、すぐ死んでしまいトリックが成立しなくなります。
犯人はこの量を決めるのに何百匹ものマウスを用いたらしいです。
もう少し詳しく説明すると、
それぞれの毒が効く時間(半減期)ってのも今回のトリックで大事なキーワードです。
この半減期がアコニチンの方が長いんです。
つまりアコニチン(トリカブト)の方が長く効く。
ってことは、同時に飲ませるとテトロドトキシン(フグ毒)が先に効かなくなってくるので、アコニチンのみの効果がでてくることになります。
そうすると、アコニチンだけ飲ませた時よりも明らかに遅く効果を出させることができます!
これが、トリックの全貌でした!
「薬理学」っていう学問を勉強するとこういうのがすぐに分かるようになります。
そして、この考え方は最初に書いたようにすべての薬で使われているものなのです。
血圧の薬であれば、カルシウムチャネルっていうのを標的にしたり、花粉症の薬であればヒスタミン受容体ってのを標的にしたり。
こういう番組で多くの人が薬に興味をもってもらえると嬉しいですね~^^
では!