ヤーズ錠×血栓塞栓症
低用量ピルをはじめとする
女性ホルモン製剤は、
決して使用頻度の低い薬ではありません。
今回の記事では、「ヤーズ錠」
(一般名:ドロスピレノン・エチニルエストラジオール)
に対する注意喚起のニュースについてまとめていきます。
症例
死亡例は、20代の女性。
月経困難症、ざ瘡(にきび)、不規則月経によりA病院にてヤーズ錠が処方
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処方開始2日目に頭痛が発現。6日目にB病院を受診。
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受診時の主訴は、朝からの頭痛、吐き気、動悸。
各種検査で問題なし。貧血がひどく、点滴などの治療を受ける。
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処方開始9日目にB病院を再受診。
頭痛を訴えたが、異常所見はなかった。
クロチアゼパムが頓用で処方され、
貧血の状態が悪いため婦人科への受診が勧められた。
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さらに同日、患者はA病院の処方医を受診し、具合が悪いと訴えた。
嘔気、食欲低下があるものの、バイタルサインは正常。
各種検査で異常なし。
この時点での同薬の総投与量は7錠。
処方医は内服を中止し、脳外科への受診を勧めた。
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患者は同日のうちに、C病院の脳外科を受診。
嘔吐や歩行困難があったが、診察時には麻痺症状などを認めず、検査予約をして帰宅。
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その翌日、患者は体動困難になり、処方開始11日後の朝、ベッドの上で失禁した状態でいるのを母親が発見。
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D病院に搬送され、CT検査により脳静脈洞血栓と診断された。
治療が行われたが、処方13日後に死亡した。
この症例をみるに、
この女性は複数の病院を受診して
自らの症状を訴えています。
女性は「患者として最大限の努力」をしたはずです。
しかし残念ながらこのケースでは
検査で異常を発見できず薬の犠牲となりました。
(※ヤーズ錠のみが原因とは断定できませんが。)
こういった症例をみると、
「病院に受診すれば副作用は回避できる」
という単純な考えはできなくなりますね。
「何かあったら受診してくださいね。」
だけでは防げないこともあるということです。
でも、現状はあくまで素人判断ではなく、
受診して何とか見つけてもらうしかないのです。
「脳静脈洞血栓」は検査ではみつけられないのか?
以下、小林小児科・脳神経外科クリニックHPから
CTでは単純撮影で約半数、造影検査を加えても、4分の1の例で何も異常が見られないといわれています。局所の脳腫脹や浮腫、静脈性梗塞像、皮質下出血などの所見が見られれば、臨床症状と合わせて、本疾患を強く疑う根拠になりますが、診断の決め手はMRI・MRAで、静脈洞内の血栓を直接描出できることもあります。
つまり。。。
検査では確定できないこともあるということです。
現在の医療では、
アレルギーなど強い副作用に対して
どうしようもないケースもあるのです。
同様の結果を招く恐れが
「低用量ピル」においても十分に考えられます。
頻度は多くはないですが、メリットだけでないことは
個々が知っておく必要がありますね。
(1)下肢の疼痛や浮腫
(2)突然の息切れ、胸痛
(3)激しい頭痛、急性視力障害
これらが、代表的な血栓塞栓症の徴候です。
まずは患者自身が異変に気づくこと。
そして、それを見抜ける医療を目指すこと。
それしか方法はないと思います。
~おまけの薬理講座~
そもそも卵胞ホルモン・黄体ホルモン(EP)配合剤で
なぜ血栓症が起きやすくなるのか?
一般的な見解は、
エストロゲン(卵胞ホルモン)が肝臓における
血液凝固因子の産生を促進するからと言われている。
実際に、エストロゲンの量の多いピルでは、
血栓症の頻度が高く、
プロゲステロン(黄体ホルモン)単独の製剤では、
血栓症が増加しないというデータがある。
ただし、黄体ホルモンの種類が異なると、
血栓症のリスクが変動するというデータもあり
両方のホルモンが関与している可能性がある。
詳細なメカニズムの解明には至っていないようです。
以上、卵胞ホルモン・黄体ホルモン(EP)配合剤における
血栓症の副作用についてまとめました。
少しでも参考になれば幸いです。