服薬指導「虎の巻」インフルエンザ編

infuruenza

毎年、必ず流行するインフルエンザ。

タミフルによる異常行動が問題となったり、たびたび話題になる疾患です。

新薬も登場しているため、治療の選択肢は拡がりつつあるといってよいでしょう。それぞれの特徴をうまく使って、各患者の状態にあわせた治療が可能となっています。

今回の内容で、インフルエンザの大まかなことは理解できるようになるはずなので、復習や確認に使ってもらえると幸いです。

【服薬指導のミッション】

抗インフルエンザ薬の服用意義と服用法を理解してもらい、最大限の効果を発揮させる。

感染前後の生活、ワクチン接種などの予防対策を理解してもらい、感染拡大を阻止し、つらい時期を最短で終わらせる。

では、早速はじめましょう!

目次

インフルエンザの知っておきたい情報

インフルエンザウイルスの特徴は?

日本で流行するのは、例年12月から翌年の3月のあたり。

なぜこの時期にインフルエンザが流行るのかというと、温度と湿度が低い冬には、「インフルエンザウイルスが長時間生き残れること」、「寒さが気道の働きを弱めること」などが関係している。

インフルエンザウイルスの種類

A型、B型、C型の3タイプがある。例年流行するのはほとんどがA型とB型で、C型は主に幼児に感染するがこれまで大流行したことはない。

インフルエンザウイルスで注目されるのは、ウイルスの表面にある2つの突起で、ヘマグルチニン(HA:赤血球凝集素)とノイラミニダーゼ(NA)とよばれる。

特にA型に関しては、これらの変異と多用性がものすごい。たとえばA型にはスペイン型(H1N1)、アジア型(H2N2)、香港型(H3N2)、ソ連型(H1N1亜種)、新型インフルエンザ(H1N1亜種)などがあり、世界的に大流行し、多くの犠牲がでた。

なぜ毎年流行するのか?

人のからだには免疫機能があったはず・・・!なのに、なぜインフルエンザに毎年かかる人がいるのか?

その理由は、インフルエンザウイルスの変異にある。上でも説明したように、インフルエンザの表面にある突起(これを人の免疫が記憶する)が、毎年少しずつ変わってしまうことが原因である。

せっかく覚えたのに、次に侵入してきたときには整形して別人になっている。鼻のみの整形くらいなら誰か分かるかもしれないが、目と顎をいじられたらもう誰か分からない。つまり、そういうこと。

よって、インフルエンザウイルスと人間の攻防は今後も繰り広げられていくことになる。

症状

ある日突然、38度以上の高熱・・・。寒気、頭痛、全身の倦怠感、筋肉痛、関節痛、腰痛などなど、こんな症状が出始めたらインフルエンザを疑ったほうがいい。

この「全身症状」の後にくるのが、鼻水、のどの痛み、咳などの「呼吸器症状」だが、子どもではこれに合わせて吐き気や腹痛といった胃腸症状がでることがある。(これは特にB型で現れやすい)

熱は3~5日程度で治まるが、子どもの場合いったん熱がさがって、1~2日後にまた熱があがってくることがあるので注意する。これを二峰性発熱という。

全体としては、このような流れだが数日で症状が軽くなり、1週間程度で完治することが多い。

感染経路をおさえろ!

インフルエンザウイルスは、口や鼻の粘膜、目などから侵入、2日程度かけて気道の粘膜に達して増殖する。

感染経路は、「飛沫感染と接触感染」空気感染ではないのがポイント!

感染者の咳やくしゃみ、唾液などと一緒に、ウイルスが空気中に飛び散る。これを周囲の人が鼻や口から吸いこむことで感染したり(飛沫感染)、感染者が触ったものを他の人が触ることでも感染する(接触感染)。

たとえば、感染者が触ったドアノブを手で触ることでウイルスが手につき、その手で目や口、鼻を触ると感染成立ー!となってしまう。

他の人に移る期間は、発症前日から発症後3~7日間、ということは1週間程度はまわりの人に感染する可能性があるから、その間の生活には注意!

診断の落とし穴

いよいよインフルではないか?と疑いが大きくなったところで、ついに検査をしてみようということになる。

幸いなことにインフルエンザの感染の有無に関しては、短時間で検査して診断することができる。鼻や口の粘膜をこすって採取されるぬぐい液や鼻水や痰をつかえば検査可能。

だが、ここで注意!

発症直後(具体的には症状がでてから12時間以内)、あるいは4日以降ではウイルス量が少ないために陰性になることがある。

通常、ベストな検査時期というのは、発症後12~48時間、乳幼児では4日以内がよいとされている。しかし、現実はそんなにうまくはいかない。この時期から外れたら、正確な検査結果がでない場合もある。

ということで、あまり大きな声ではいえないが、陰性であっても抗インフルエンザ薬が処方されることは少なくない。

インフルエンザの予後は?

もともと健康な人であれば放置しても完治することがほとんど。これは一般的な風邪と変わりない。

しかし、例によって高齢者、乳幼児、体力が落ちている人、喘息・心臓に持病がある人などには注意が必要。主な合併症としては、高齢では肺炎・気管支炎、乳幼児では脳症がある。

肺炎の現状

毎年、約12万人の人が肺炎で亡くなっていて、そのほとんどが高齢者という現状がある。

肺炎そのものはウイルス、細菌どちらでも起こりうるがインフルエンザの場合には細菌の二次感染が多いということが知られている。

これには、インフルエンザウイルスによって気道粘膜(上皮)が傷つけられ、細菌が付着しやすくなるといった理由がある。

肺炎の徴候としては、「かぜの症状が治らない、長引いている」「症状が悪化している」「息切れがある」「食欲がない」などがあるから、知っておき注意してもらうとよい。

脳症の現状

脳症は、簡単にいうと脳が腫れる症状で、主に5歳以下の乳幼児で生じやすい。ちなみに日本では年に100~200人が発症しており、10人に1人が命にかかわる経過をたどる。

発熱がおこって1日以内に、意識障害や異常行動、言動、麻痺、痙攣などの症状があらわれたら疑ってもよい。

発症のしくみはよく分かっていないが、一部の解熱薬(NSAIDs)で発症することも示唆されているため、ここは薬剤師が注意したいところ。

ワクチンについて

インフルエンザワクチンについては、非常に賛否が割れている状況にある。それは医療関係者であっても同じである。

インフルエンザウイルスはそもそも変異しやすく、他のワクチンに比べて有効性が低い可能性がある、ということは事実としてある。

そして、因果関係は不明であるが、ワクチンを摂取したことによって疑わしい副作用や死亡例が、まれではあるが存在することも事実だろう。

こういった状況のなかで、ワクチンをどう考えるか?ということについては、考える立場や視点によって当然変わってくる。

しかし、現実的かつ一般的な見解として、ワクチンを摂取する人は多くいて、摂取によってインフルエンザの重症化や感染拡大を阻止していると評価されている。(これらは結果論でしかないため、比較のしようがない)

よって、特別な理由やエビデンスがない限り、薬剤師としてはワクチン接種を勧めることが一般的となる。

ワクチンの時期は?

年によって流行時期は異なるが、日本では流行がはじまる12月頃までに接種することが必要とされる。一般に、摂取後2週間から5ヶ月程度にまで効果があるといわれている。

接種回数と時期は、年齢によって異なる。

生後6か月以上13歳未満・・・2回で接種間隔は2~4週。

13歳以上・・・だいたいは1回で終了。抵抗力が低下している人に対しては4週程度あけて2回目を接種することがある。

予防テクニック

何はともあれ外出したら「手洗い・うがい」が原則。(※うがいの効果については諸説ある)

うがいをするなら、水よりも、細菌にも有効なポビドンヨード(通称、イソジン)を使用すれば一石二鳥なのでおすすめ!

そして、ウイルスによる感染症ということがはっきりしている以上、「人ごみ」はそれだけでリスクになる。できることなら避けたいが、マスクの着用は必須。

インフルエンザウイルスはアルコールに弱いため、アルコールによる消毒も効果的。

手に付着したウイルスが感染力を維持できるタイムリミットは2~8時間で、この間はウイルスも生死をかけて必死。一晩たてばだいたい感染力はなくなると考えてよい。

また、乾燥するとウイルスは感染力アップしてしまうため、加湿器を使って適度な湿度(50~60%)を保つのも効果あり。

感染拡大を防ぐためにも、解熱後2日経つまでは登校はだめと「学校健康法」に記載がある。出勤についても同様。

とはいえ、これを守っていけるほど社会は甘くはないはず。マスクの着用、過度な接触など最低限のマナーを守るのが大人の対応。

これだけはおさえたい薬のツボ

残念ながら、インフルエンザウイルスを”直接”攻撃できる薬はでていない。

インフルエンザに使われる薬は、ウイルスが増えるのを抑えるものであるということを忘れてはいけない。

このことから分かるのは、ウイルスが増えすぎたらもはや手遅れ、あとは体の白血球さんに頑張ってもらうしかないということだ。

一般的なタイムリミットは48時間、フォーティーエイト(たぶん、この海外ドラマは流行る)。発病から2日を過ぎると、薬の効果がでないと予測されるため、対症療法でなんとか持ちこたえるしかない。

よって、抗インフルエンザ薬が処方されている人をみかけたら、全力で即使用してもらうのが◎。

ノイラミニダーゼ阻害薬

ウイルスが人の細胞から外にでるときには、ウイルス表面にあるノイラミニダーゼという酵素が働くことが分かっている。

この酵素を阻害すれば、ウイルスが細胞外にでてこなくなって、それ以上増えなくなるという封じ込み戦略といっていい。

商品名を挙げるとタミフル、リレンザ、イナビル、ラピアクタなどがあり、A型、B型どちらにも効く。

タミフル

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抗インフルエンザ薬の中で、良くも悪くも最も知名度の高い薬。一般名はオセルタミビル。

治療だけでなく、予防にも使われる唯一の飲み薬。治療の場合には、通常1日2回で5日間服用する。

剤形はカプセル、粉とあるので、吸入薬が服用しにくい10歳以下の小児と、高齢者でよく処方される。特に、0~4歳では吸入薬をうまく使えないので、タミフルが使われる。

ただし、「トランス状態への突入」というかの有名な副作用容疑があるため、10~19歳では、ほとんど使用されなくなっている。

予防で使う場合は?

タミフルを感染予防のために使う場合には、1日1回で7~10日間続けて飲むことになっている。

インフルエンザに感染した人に接触してから2日以内に服用を開始する必要がある。これもまたタイムリミットは2日間である。

対象となるのは、感染者と同居している家族、院内・施設などの共同生活者で高齢や持病のある人となっている。

ちなみに、予防に使う場合の薬代金は「自費」である。が、実際の現場がどうなっているかは、各々の曇りなき眼で見定めてほしい。

異常行動(トランス状態への突入)

タミフルを飲んだ後、異常な行動を起こし、高所から飛び降りるといった事故が起きたことが報告された。

確定事項のように噂されてはいるが、実際の因果関係については定かではない。異常行動は年齢にかかわらず起こるとされるが、これまでの報告の約8割が未成年である。

このことから、10代の患者には原則禁忌になっており、「子どもがタミフルを服用開始したら、少なくとも2日間は1人にしないように見守るように」という、何ともふわっとした指示がでていることも忘れないようにしたい。

また、異常行動については、インフルエンザ脳症でも起こることがあるため注意したい。

リレンザ

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吸入薬のなかではベテランさんで処方頻度も高い。一般名はザナミビル。

これも治療だけでなく、予防にも使われる。治療では1日2回で5日間吸入する。タミフルが使用しにくい10代の患者によく使用されている。

合計して10回吸入(20ブリスター)するため「失敗できるチャンスがある!」という見方もあり、それを意識して処方する医師もいるそう。

ただ、個人的にリボルバータイプのデバイスは好きなのだが、高齢の患者への説明はかなり骨が折れる。すぐ目の前でデモをしたところで、全然できないことは日常茶飯事。そして吸入できているか相当に怪しい。

これを何とかするのが「薬剤師」。仕事の流儀。ザ・プロフェッショナル。

リレンザを予防で使用する場合には、1日1回(2ブリスター)を10日間継続して吸入してもらう。目安は感染に接触後、1.5日以内とされている。対象はタミフルと同じであり、自費の現状については随時現場で確認してほしい。

イナビル

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リレンザと同じ吸入薬だが、その実態は全く異なる。一般名はラニナミビル。

まず、1回の吸入で治療が完結されるという神がかり的な仕様になっている。これがよいか悪いかは、評価する立場によって異なる。

1回で確実に吸入できればよいが、吸えていなければオジャンになるリスクもあり。

主にしっかりと吸入ができる10歳以上の患者でよく処方される。

詳しい説明書がついているが、親心としては不安なため目の前で吸ってもらうことも少なくない。しかし、シーズン真っ最中にこれをやってしまうと、待ち時間が素敵なことになってしまうので、そのあたりも腕の見せ所。

ラピアクタ

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病院で点滴してもらう薬のため、薬局でお目にかかることはまずない薬。

成人は通常、1回300mgを15分かけて単回点滴静注する。重症化する恐れがある場合には1回600mgまで増量可能。症状に応じて、連日反復投与できる。

おもに入院患者や、薬の服用や吸入ができないといった重症患者に使われることが多い。

他の抗インフルエンザ薬に比べて効き目が早いのも特徴で、受験生や多忙な人に対して、外来で使われることもたまにある。

対症療法

抗インフルエンザ薬にあわせて、熱、鼻水、喉の痛み、咳、痰といった症状があれば、去痰薬、解熱薬などが追加で処方される場合があります。

注意点としては、解熱鎮痛薬によるインフルエンザ脳症、ライ症候群といったリスクの高い症状。

怪しいNSAIDsが処方されていた場合にはストップ、どうしても必要であればアセトアミノフェンが推奨される。

副作用

抗インフルエンザ薬については、異常行動を除けばこれといって特徴的な副作用はない。

どの薬にも共通していえる「薬剤性アレルギー」に関しては、まれではあるが発生してしまうのが世の常。

SJS(スティーブンス・ジョンソン症候群)、TEN(中毒性表皮壊死症)など皮膚症状をはじめ、劇症肝炎、急性腎不全、血液障害などが報告されている。

これらに関しては決して怖がらせるのではなく、初期の段階で気づけるように頭の片隅にそっとおいてもらう程度に説明できるとよい。

ちなみに、構造的にはリレンザとイナビル(活性代謝物)はかなり似ており、交差アレルギーを起こす可能性があるため、どちらかにアレルギー歴をもっていた場合には要注意。

まとめ

いかかでしたでしょうか?

少し長くなりましたが、今回はインフルエンザをテーマにまとめてきました。

薬剤師ができることは、まずは確実に薬を服用できるようにフォローすること。そして、”公衆衛生をつかさどる”という使命にのっとり、感染拡大を防ぐこと。

また、自らが感染源とならないように、予防を徹底する努力をすること。休日に、マスクもせずに満員電車で人ごみにゴー!!っていうのはできるだけ控えましょう(笑)単純に感染したら自分が大変ですし・・・。

また、ワクチンについてもネットではいろんな情報が飛び交っていますから、そのあたりを吟味して正しい情報を伝えるっているのも大事なことなのかなと思っています。

では、何かお役にたてれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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コメント

  1. こう より:

    一応現役薬剤師です。

    予防投与の事で付け足しです^^

    タミフルやリレンザなどは予防投与で1日1カプセル服用すると思いますが、服用している間しか予防効果はありませんので・・・

    つまり、2週間後とかにかかってしまう可能性はあります^^;

    自費の話ですが、私の所はしっかり自費ですね。

    最近は厳しいのでそのような危ない橋をわたる所は減ってきていると信じたいところです・・・。

    • しゅがあ より:

      コメントありがとうございます^^

      インフルエンザの予防・治療の効果についてはいろいろな意見ありますね・・・。
      この問題は個体内では比較ができないですから、うやむやになってしまいがちです。

      予防接種、予防投与をいれると金銭的な負担も少なくないですし。
      ワクチンについては僕も自信をもって、オススメしたり、批判したりはまだできてない状況です・・・。