今回のテーマは、基本中の基本。
抗コリン作用と口渇についてです。
唾液の分泌メカニズムから始め、
薬の副作用までつなげていこうかなと思います。
まずは唾液分泌のメカニズムからです。
ちょっと専門的というか
分子生物学をかじるので苦手な方はさらっと。
唾液の主成分は「水」ですが、
ではその水はどうやってでてくるの?
という話になります。
基本的に唾液腺から分泌される
「水」はムスカリン受容体(M3)の刺激に
よって起こります。
つまり副交感神経の興奮によって
唾液の水は分泌されるというわけです。
(今回は副交感神経中心に焦点を当てます)
副交感神経終末から分泌された
アセチルコリン(ACh)が唾液腺の
血管側の膜細胞上のムスカリン受容体を刺激
↓
Gqタンパクを活性化
ホスポリパーゼCを刺激し、
カスケードが進み結果的には、
カルシウム貯蔵庫からカルシウムイオンの放出が起こる
↓
カルシウムイオンの増加により、
腺腔側にある塩素イオンチャネルが開き、
膜細胞内に溜まった塩素イオンが腺腔内に分泌される
↓
腺腔内の塩素イオン濃度上昇により
それに引っ張られたナトリウムイオンが
血管側から細胞間隙を通って腺腔内に移動してくる
↓
すると、両者が合わさり塩化ナトリウム
となり腺腔内の浸透圧が上昇。
それを薄めようと、細胞間隙または
アクアポリン(水チャネル)によって水が腺腔内に移動する
↓
この水こそが、
唾液腺腔に溜まった「唾液」となる。
一方で、交感神経の方では、
β受容体を介して”蛋白質”を唾液腺腔内に
分泌するという役割をしています。
つまり、緊張して交感神経優位になると
”蛋白質”豊富なネバネバした唾液がでて、
リラックスして副交感神経優位になると、
”水分”豊富なさらっとした唾液がたくさんでるわけです。
つまり、抗コリン作用をもつということは、
唾液の”水”生成のスタート地点を抑える、
蛇口を占めるのと同じ作用をもつということです。
例えば、抗癌剤のシクロホスファミドは
術後の補助療法として使われますが、
”唾液がよくでる”ことが知られています。
これはシクロホスファミドに
コリンエステラーゼ阻害作用があり、
副交感神経を刺激するためと考えられています。
コリンエステラーゼ阻害薬と言えば。。。
そう、認知症の薬です。
ドネペジルなどの抗認知症薬でも
”流涎(りゅうせん)”と呼ばれる
よだれが垂れてしまう副作用があります。
これらの症状がでていたら、
薬が効きすぎているサインとも
考えることができますね。
他にも様々な薬が口渇の原因となります。
上の図をみながら理解してもらうと、
少し分かりやすいかもしれません。
☆ループ利尿薬やNSAIDs
⇒Na-K-Cl共輸送系を抑制
⇒水の生成抑制
☆Ca拮抗薬、テオフィリン(キサンチン誘導体)
⇒膜細胞内のCa貯蔵庫からCaイオンの遊離を
抑制(Ca濃度↓)
⇒水の生成抑制
☆モルヒネなどのオピオイド
⇒Caイオンチャネルを抑制して外分泌腺抑制。
以上、唾液分泌のメカニズムから
薬の副作用を少しだけつなげて紹介しました。
今回のテーマは「口」の渇きで、
「喉」の渇きはもっと脳に近い部分で
「口渇中枢」というところが関係しています。
ちなみに、口渇中枢には
・ノルアドレナリン
・グルタミン酸
・ドパミン
・オレキシン、
・γアミノ酪酸(GABA)
など様々な神経伝達物質が関与していて
複雑に調節されています。
このことが、多くの薬によって
喉の渇きや口の渇きがでる理由です。
薬によって喉がかわいたり、
口がカラカラになったりするのは、
もっと深く、複雑に関係しているのですね。
ただ、今回は「副交感神経」に
焦点を当てて考えてみました。
抗コリン作用による副作用は
比較的シンプルで分かりやすいところですね。
では、今回はこれで。
最後までお読みいただきありがとうございました!