アスピリン×ジレンマ
◆アスピリンはヤナギの木から。
アスピリンの誕生のきっかけは、
古くから鎮痛の目的で使用されていたヤナギの樹皮でした。
そこから有効成分であるサリチル酸が抽出され、
味(苦味)と副作用(胃腸障害)を改善するために合成されたのが、アセチルサリチル酸(別名:アスピリン)です。
ちなみに、アスピリンは世界で初めて人工合成された医薬品なのです。
それから100年以上にわたり使用されていきていますが、
1967年に血小板凝集抑制作用をもつことが見いだされて以来、
抗血小板薬としても頻用されるようになりました。
日本では2000年に、従来使用されてきたバイアスピリン錠100mgやバファリン81mg錠(小児用)が、公知申請により抗血小板療法の適応を取得しました。
◆アスピリンの抗血小板作用とは!?
アスピリンの抗血小板作用は、
アラキドン酸カスケードに関与する酵素の1つである
COX(シクロオキシゲナーゼ)の不可逆的な阻害によるものです。
アスピリンはCOXを阻害し、
PGの生成を抑制することで、
抗炎症、解熱、鎮痛などの作用、そして抗血小板作用を発揮します。
アラキドン酸
↓ ←COX(アスピリンが阻害する酵素)
PGG2
↓
PGH2
↓
TXA2(血小板):血小板凝集、血管収縮
PGI2(血管内皮細胞):血小板凝集抑制、血管拡張
PGE2(炎症部位など):炎症、発熱、発痛
◆アスピリン・ジレンマってなぜ起こるの?
アスピリン・ジレンマとは。。。
アスピリンの用量(飲む量)によって血小板凝集の抑制と促進という相反する作用が現れること。 すごく分かりやすく言うと、アスピリンは少しだけ飲むと血液サラサラになるけど、たくさん飲むと血液ドロドロになってしまうということです。
なぜこんなことが起こるのか。。。?
それは、COX(アスピリンが阻害する酵素)が
血小板と血管内皮細胞に存在していて、
それぞれの場所で全く反対の作用をしているからです。
血小板では、TXA2(トロンボキサンA2)を産生し、
血小板の凝集を促進します。
一方、血管内皮細胞では、
PGI2(プロスタサイクリン)を産生し、血小板の凝集を抑制します。
本来アスピリンは、
血小板の方に親和性があるため、
低用量では血小板のCOXを主に阻害し、血小板の凝集を抑制します。
しかし、飲む量を増やしていくと
血管内皮細胞のCOXまで阻害するようになり、
PGI2の産生も抑制してしまいます。
このような理由により、
アスピリンは飲む量を増やしていくと
逆に血液ドロドロになってしまうのです。
◆他にもNSAIDs(COX阻害薬)はあるのに、
なぜアスピリンだけが血小板の凝集を抑えるの?
それは、「不可逆性」という特徴に鍵があります。
アスピリンによる抗血小板作用が
COX阻害に由来するのであれば、
他のNSAIDsでも同様の効果が期待できるはずです。
しかし、アスピリンが不可逆的にCOXを阻害するのに対し、
他のNSAIDsのCOX阻害は可逆的なのです。
だから他のNSIADsでは、
アスピリンと同様の少量投与による抗血小板作用は期待できないのです。
◆アスピリンの休薬はどのくらい?
血小板には「核」がないため、
基本的にCOXは新しく作られることはありません。
アスピリンにより不可逆的にCOX阻害された血小板は、
その寿命を終えるまで効果が持続するということです。
※これも低用量のアスピリンが抗血小板作用を示す重要なポイントなんです!
血小板の寿命は7~10日間なので、
手術前にアスピリンを休薬するのはその程度の期間が必要になります。
ただし出血のリスクと休薬によるデメリットを考慮すると、
抜歯や、小手術においては、抗血小板薬の服用を継続することが望ましいとされています。
以上、簡単にではありますが
アスピリンの抗血小板作用と、そこに潜むジレンマについてまとめました。
薬理学的にはすごく絶妙なバランスの上に成り立っているのです。
大昔から使われている薬ではありますが、
勉強になるところが多いすごく奥の深い薬です。