薬剤師の「話」にお金をいただくことは可能か?

s-cosal

先日、ある患者さんから言われた最後の一言。

「いまの話、追加で点数取ってもらっていいからね。」

これは、おそらく薬局薬剤師として働いている者であれば、最も嬉しいといってもよい言葉だろう。

これは何も、僕の話がすごく役に立つものだったわけでもなく、その人の病気を治す画期的な方法を提供したわけでもない。

そして、こんなことがあるのは(残念ではあるが)、ほんとうに「まれ」なのだ。

本来であれば、このように感じてもらえるように全ての患者さんに「何か」を提供したいと思う。思うが、なかなか難しい、ということは多くの薬剤師に共感してもらえるのではないか、と勝手に思っている(笑

では、こんな珍しいことがなぜ起こったのか?僕なりに考えてみた。

意外に患者は病院に満足できていない

これは、すべての人というわけではないが、少なくはない人達がそう感じているように思う。

それは、治療方針など直接的な病気の治療にかかわるところから、単純に話を聴きにくいであったり、説明が十分になされない、というところに一種の不満を感じているようにも思う。

で、今回の僕のケースでは、おそらく後者のニーズを満たしたものであったと思う。

詳細はあまり記載できないが、泌尿器系にトラブルをかかえている患者だった。水腎症と尿管に腫瘍の疑いがあるが、生検をするかどうかで治療が止まっており、しばらく「放置」するしかないというような境遇だった。

患者としては、いわゆる「がん」かもしれないものを、そう簡単に放置されて、取り返しがつかない状況になるでのはないか不安だという心境にあったようだ。

そして、詳しい説明もなく放置するという病院の対応に対して、少し不信感も抱いているような印象だった。

説明があれば納得する

こういう状況にある人に対して、あなたならどのようにお話をするだろうか?

薬局では、情報源としては「患者の言葉」しかなく、医師が考える具体的な治療方針などはうかがい知ることはできない。

つまり、「予想」しかできないということだ。もちろん電話で確認することはできるが、いわゆる疑義でなければそう簡単ではないことも察してもらえるかと思う。

よって、私がそのとき実践したのは「共感」と「一般論」だ。共感というのは、特に意識しなくても、相手の立場に立って考えたときに「自然と出る言葉」で十分だ。

変にテクニックを意識して発した言葉は、少なくとも僕はわざとらしくて好きではない。

次に一般論。これは心理学でもよくいわれることではあるが、人は「まわりの人」を意識して、それと同じだと安心することが多い。

つまり、この「放置」という医師の判断が別段特別ではなく、一般にそういう状況はおかしいものではない、ということを理解してもらうのだ。

今回のケースであれば、おそらく医師のなかで緊急性のある状態ではなく、ある程度時間をおいて経過をみたい、というところなのだろう。

また、患者の口からでた「細胞をとって検査する」ということも、おそらく「生検」を指しているものと思うが、血液検査のようにノーリスクでできるものではい、ということを理解してもらった。

必要と判断されれば検査は実施されるものであるし、腫瘍も短期間で全身に転移するものだけではない、ということも説明した。

結論だけをいうと、安心してもらっただけ、だ。

「水腎症が気になるから、何か薬などはないか?」という患者の言葉もあったので、併用薬との兼ね合いも考慮して漢方はどうか?ということもお話した。

そこまで詳しくフォローできるとよかったのだが、あいにく今の僕には漢方の知識はほとんどない。

近くに漢方外来があったので、よかったら受診してみてもよいでしょう、ということで納得されたようだった。

患者は「明確な答え」を求めていない

これは非常に重要なことだが、人が何かを相談するときには「答え」を求めていないことがある。

特に女性に多いが、「話だけ聴いていてくれたら、それでいいの!」というやつだ(笑)。

もちろん明確な答えを求めていることもあるため、毎回のように抽象的な答えや共感だけ、というのは論外だが、健康というデリケートな問題においては、明確な答えがでないことも多い。

こういう分野では、無理に答えを出すとかえって誤解を生んだり、物事がスムーズに進まないことも多い。

そういうことを理解せずに、「なんとしても答えを提示しないと!」というプロとしての重圧に負けてしまうと、逆に患者やクライアントに不利益をもたらしてしまうことも多い。

そういう場合には、話し手が自分のなかで納得し、安心できるように、手を差し伸べるというスタンスが非常に大切になると感じる。

そして、今回の患者の言葉にある「今の話にお金を払ってもよい」というのは、そういうニーズを満たしたからだと僕は考えている。そして、患者はそこに価値を感じた、ということなのだ。

特に知識が少ない新人さんなどは、自分のなかで答えをもたないケースというのも少なくないだろう。

こういった方のために、今回の話が少しでも参考になればうれしい。

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