【Vol.17】ビグアナイド薬(メトホルミン)の乳酸アシドーシスの機序は?

ガレガソウ

今回は非常にピンポイントな記事ですので、興味のある方へ!

ビグアナイド薬(メトホルミン:商品名メトグルコ)の乳酸アシドーシスについての勉強です。

ビグアナイド薬の歴史

ビグアナイド薬は、肝臓における「糖新生を抑制する」という他剤にはないメカニズムによって、特に2型糖尿病の治療において広く使用されています。

しかしながら、ビグアナイド薬は「挫折」と「復活」を繰り返してきた興味深い歴史をもつ薬です。

ビグアナイド薬は、地中海に自生するガレガソウという植物にルーツをもちます。

ヨーロッパでは、中世以前から民間療法の薬草として糖尿病の治療に使われてきました。薬用ハーブとしても知られ、授乳期の女性の「母乳」を増やす薬としても知られていました。

メトホルミンも巻き添えに

アメリカでは、以前フェンホルミンというビグアナイド薬が使われていました。

しかし、「乳酸アシドーシス」という非常に重篤な副作用が報告され、以後30年以上も使用禁止とされていました。これと同時期にメトホルミンも巻き添えをくらう形で使用されなくなっていったのです。

しかしながら徐々に効果が見直され、イギリスでは1958年から、日本では1961年、カナダでは1972年から、メトホルミンが使われ始めました。1990年代に2型糖尿病の大規模な臨床試験が行われ、改めてメトホルミンの効果が証明されました。

ついに1994年、アメリカの食品医薬品局(FDA)においても安全性を確認され、メトホルミンは認可されました。そして、わずか数年のうちにアメリカで最も多く処方される経口薬になったのです。

アメリカ人の2型糖尿病は肥満によるインスリン抵抗性が多く、血中にはインスリンがたくさんあります。その人にSU薬を処方して、さらに高インスリン血症にすることは逆に危険です。メトホルミンはインスリン分泌には影響せず、体重増加など作用もないため使いやすい薬だったのです。

乳酸アシドーシスとは

では、本題の「乳酸アシドーシス」について勉強していきましょう!

まず、乳酸アシドーシスとはどういう状態かというと、、何らかの原因によって血中に乳酸が蓄積する結果、血液が大きく酸性に傾いた状態のことです。

初期症状は消化器症状(悪心・嘔吐・下痢)、筋肉痛、脱力感などの非特異的な症状です。しかし、乳酸アシドーシスの発症は急激で、症状が進行して数時間放置すると昏睡状態に陥ります。死亡率は約50%とされており、予後不良の非常に危険な疾患です。

この説明のとおり、結論からいうとビグアナイド薬は「乳酸」を体内に増やしてしまうことで「乳酸アシドーシス」を起こすわけです。

では、なぜ、乳酸を増やしてしまうのか?

それを考える上ですごく分かりやすいのがこの図です。↓
乳酸アシドーシスhttps://ds-pharma.jp/

ヒトの体ではブドウ糖からエネルギーを生み出す際には、「嫌気性」と「好気性」、ふたつのルートを使うことができるのです。

好気性ルートは、ミトコンドリアにおいて「酸素」を使ってエネルギーを生み出すルートで、最終的には電子伝達系を介して大量のエネルギー(ATP)を生み出します。

一方、何らかの理由で酸素を十分に利用できない場合、嫌気性ルートに流れ、最終的にピルビン酸は乳酸へと形を変えます。これが身体に溜まってしまうとアシドーシスになるわけです。

(激しい運動をしているときに、「乳酸が溜まってきた!!」っていうあれですね^^)

ビグアナイド薬は、ミトコンドリア膜に結合して「電子伝達系を抑制する」ことが報告されています。つまり、ビグアナイド薬によって好気性ルートが邪魔されるため、乳酸を産生する嫌気性ルートに傾いてしまうわけです。

しかし、健康な体であれば、乳酸は肝臓に取り込まれ代謝されるため、アシドーシスを起こすほど体内に蓄積するということは本来起こりません。

一方で、肝機能障害により、肝臓での乳酸代謝が低下したら注意が必要です。

また、メトホルミンは未変化体のまま腎臓から排泄されるため、腎機能障害(特に透析患者)の場合、体内に高濃度に蓄積し、乳酸アシドーシスのリスクは高まります。

さらに、アルコールは分解される段階で、ピルビン酸から乳酸への転換を促進するためリスクを高めます。こういった、「患者側の要因」と「薬物自体の作用」が、運悪く重なってしまうと、重篤な副作用が起こってしまうわけです。

構造の違いと副作用

ビグアナイド薬の化学構造の違いが、乳酸アシドーシスの起こしやすさに関与しているというデータがあります。

ビグアナイド薬はグアニジン2分子と疎水性の側鎖から構成されています。側鎖が長く、脂溶性が高いほど、ミトコンドリア膜に結合しやすいことが明らかになっており、ビグアナイド薬の中で乳酸アシドーシスの発症リスクが異なる理由の一つとして考えられています。

構造をみると、メトホルミンは他の2剤と異なり側鎖が短く水溶性が高くなっています。よって、ミトコンドリア膜への結合性が低いために乳酸アシドーシスを起こしにくいと考えられています。

1970年代の調査結果:フェンホルミン:10万人・年あたり20~60例、メトホルミン:10万人・年あたり1~7例程度

ビグアナイド
https://ds-pharma.jp/

メトホルミンによる乳酸アシドーシスのリスクは、他の血糖降下薬と比較しても大差ないとも言われており、非常に安全な薬であることは間違いありません。

正しく使用すれば、非常に有用な薬ですから、経過に注意して上手に使用することが大切です。

最後に、乳酸アシドーシスになってしまったときの対応については、下記のものがあります。

〇メトホルミンの投与中止

〇血液透析、輸液による強制利尿(メトホルミン・乳酸の除去)(乳酸を含む輸液は使用しない。)

〇炭酸水素ナトリウム静注=アシドーシスの補正。
⇒過剰投与によるアルカローシスに注意。pHが低い場合に適用を考慮し、慎重に投与。

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