私たちは、毎日のように細菌・ウイルス・花粉・ほこりなど無数の種類の抗原にさらされています。
それら一つ一つは形が異なるため、すべてに対応するには”常に”無数の抗体を用意しておく必要があります。
一見、これは不可能のように思えますが、実際、私たちの体内にはあらかじめ無数の抗体が用意されています!
今回は、私たちの体内で、一体どのようにして膨大な種類の抗体をつくりだしているのか学んでいきましょう!
目次
すべての蛋白はDNAからつくられる
私たちの体内には、抗体以外にも数えきれないほどの蛋白が存在しています。
それらは、体の外から与えられるものではなく、私たちのDNAに書きこまれた情報「遺伝子」をもとにつくられるのです。
一つの抗体は、それに対応する一つのB細胞の遺伝子からつくられます。ちなみに、1つのB細胞からは、1種類の抗体しかつくられません。
つまり、抗体の多様性は、すなわちB細胞の多様性ということもできます。無数のB細胞がうまれることで、無数のパターンの抗体が生まれるわけです。
B細胞では”天然の遺伝子組換え”が起こる!
基本的に、同一人物であれば、どこの細胞をみても同じDNAをもっています。
B細胞も同様で、生まれたての時にはすべて同じDNAをもっています。当然、そのままではすべてのB細胞がまったく同じ抗体をつくってしまいます。
それでは、1種類の抗原にしか反応できませんから、体の防御機構としては成り立ちません。
では、同じDNA(遺伝子)から、どうやって多様な抗体をつくることができるのでしょうか?
そのメカニズムが「遺伝子の組換え」であり、「抗体遺伝子の再編成」ともよばれるものです。
この再編成は、リンパ系細胞から分化したばかりのproB細胞から、さらに未熟B細胞へと分化するときに起こります。
どの部分の組換えが起こるのか?
では、どこの遺伝子を組み換えるのでしょうか?
それは、抗体の「V領域」とよばれる部分です。この領域は「組み換えて変化させることができる」という意味で、「可変領域」ともよばれます。
抗体の構造を思い出しましょう。抗体は重鎖(H鎖)と軽鎖(L鎖)が組み合わさってできていましたよね。
さらに詳しくみていくと、抗原と結合する部位はH鎖のVH領域とL鎖のVL領域の組み合わせで構成されています。
VH領域はさらにV,D,J部分、VL領域はV,J部分からできています。
これらの組み合わせからなる領域を「可変領域」とよんでいます。
また、可変領域の構成決定は、あくまでもB細胞の分化の過程で行われ、一度決められたら後から変化することはありません。
ゆえに、1種類のB細胞からは、1種類の抗体しかつくられないのです。
たとえば、成熟したB細胞が抗原と接触して、自ら産生する抗体の可変領域をその抗原に合うように微調整する、といったことはできないのです。
これができたら、無数のB細胞(抗体)をあらかじめ用意しておく必要はなくなりますよね!
VH領域の再編成のしくみ
抗体遺伝子の再編成をイメージをするため、VH領域の遺伝子を例にしてそのしくみをみていきましょう。
リンパ系幹細胞から分化したばかりの超未熟なproB細胞では、抗体H鎖遺伝子はまだ完成していません。
そこには、VH領域の遺伝子としてV部分、D部分、J部分の遺伝子断片をそれぞれいくつかもっています。
今のところ、各部分の断片の種類はV:約1000種類、D:約30種類、J部分:約6種類といわれています。
これらのなかから、Vから1つ、Dから1つ、Jから1つ遺伝子断片が選択されます。(他の部分は切り捨てられる!)
すると、これだけでも約18万種類の組み合わせが生まれることになります。
さらに、L鎖のVL領域でも同じような再編成がおこるため、それらを掛け合わせると膨大なパターンの可変領域を生み出すことができます。
以上のように、「抗体遺伝子の再編成」という方法によって、proB細胞は無数の種類の抗体をつくりだすB細胞に分化できるのです。
こうして、体内には無数の抗原に反応できる抗体のパターンをあらかじめ用意しておくことができるのです!