医療用麻薬に依存性がない理由とは!?

麻薬×存性

「医療用麻薬(オピオイド)」は
末期癌などの疼痛コントロールに使われています。

使用するにあたり患者さんにまず説明されるのが、
痛みに使われる分には「依存性」はないということです。

なぜそのようなことが言えるのか?
少し専門的になりますが、
この記事で分かりやすく説明したいと思います。

まず、麻薬の「依存性」とは主に「精神依存」のことです。
簡単に言うと麻薬や覚せい剤のように、
一度使ったらまた使いたいと強く感じるようになることです。

この「精神依存」が形成されるのが、
中脳辺縁系(ちゅうのうへんえんけい)にある
脳内報酬系(のうないほうしゅうけい)と呼ばれるところです。

opioid

脳内報酬系のドパミン神経系が興奮すると、
脳の奥にある側坐核に対してドパミンが放出されます。
これによって、脳が興奮、多幸感、快感などを感じるというわけです。

通常はこのドパミン神経系は、
GABA神経系によって抑えられているので常なバランスを保っています。
モルヒネなどが作用する「μ(ミュー)受容体」はこのGABA神経系にあります。

モルヒネはこの「μ受容体」を刺激して、
この刺激がGABA神経系を抑制します。

このあたりでちょっとこんがらがってきましたか!?

つまり、ドパミン神経はGABA神経系によって抑制されていたのに、
モルヒネによってその抑制を外されてしまうわけです。
つまり、ドパミンの放出は増えて気持ちよくなるわけです。

ここまでが基本的な構造です。

ここからの説明の説明を理解するためには、
「内因性オピオイド」というものを知っておく必要があります。

もともと私たちの体の中にも、痛みなどを感じたときに
モルヒネと同じようなものつくられる仕組みがあります。

大きく分けて3つの種類があって、
・エンドルフィン類(μ受容体に作用)
・エンケファリン類(δ受容体に作用)
・ダイノルフィン類(κ受容体に作用)に分けられます。

μとかδとかκというのは、
オピオイドが結合する受容体の種類のことです。

特に依存性形成に大切なのは、
κ受容体(κ神経系)とμ受容体(μ神経系)のバランスです。
一般的に、κ神経系μ神経系となったとき依存性が形成されやすくなります。

健常人に麻薬(モルヒネ)を使用すると、
μ受容体が刺激され、すぐに依存性が形成されてしまうのです。

一方で、
慢性疼痛(痛みを長期間感じている)の場合は、
κ神経系μ神経系となっています。

したがって、医療用麻薬でμ神経系を刺激しても
そのバランスがもとにもどるだけなので精神依存性は形成されないのです、

では実際に、
炎症による慢性疼痛が起こっているとき、
神経障害による慢性疼痛が起こっているとき
に脳内ではどうなっているのでしょうか?

①炎症による慢性疼痛の場合

このとき内因性オピオイドとしてはダイノルフィンが主に放出されています。
ダイノルフィンはκ受容体に結合して、脳内報酬系のドパミン神経系を抑制しています。
相対的に考えるとκ神経系が強くなっているので、κ神経系>μ神経系です。

この状態で、モルヒネを使ってもκ神経系が強くなっているので、
μ受容体刺激による依存形成は打ち消されます。
つまり依存性は形成されないというわけです。

②神経障害による慢性疼痛の場合

このときは、主にβエンドルフィンが持続的に出ています。
βエンドルフィンはGABA作動性神経に存在するμ受容体を持続的に刺激します。

すると、μ受容体の機能の低下や反応性(感受性)の低下が起こります。
この状態でモルヒネを使っても通常のようなGABA受容体の抑制は起きないので依存性は形成されないのです。

以上のことから、
炎症性・神経障害性どちらに起因する慢性疼痛に対しても、
痛みの緩和の目的で麻薬(オピオイド)を使う場合、精神依存は生じないというわけです。

現在では「痛みを我慢する」ことに関して
身体にとって害しかないことが分かっています。

正直なところ日本人の気質によるところもあると思いますが、
鎮痛分野において日本はまだまだ遅れています。
積極的な医療用麻薬の使用は恥ずかしいことでありません。

痛みの少ないQOLの高い大切な時間を与えてくれる画期的なものです。
正しい管理のもと適正な使い方でしっかりと使用していくことが大切です。

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