ACE阻害薬×ARB ~RAS阻害薬~

ACE阻害薬×ARB

レニン・アンジオテンシン系(RAS系)は今の高血圧治療において中心的なターゲットです。
しかし、意外に分かりくく全体を把握しにくいところでもあります。
今回の記事では、それを少しでもすっきりしたいと思います。

レニン・アンジオテンシン系(RAS系)って?

もともと生物は海で生まれました。
次第に陸に上がり、淡水中で生息するものもでてきました。
そこで問題になるのは塩(NaCl)特にナトリウム(Na)をいかに体の中に保持するかということです。
海中には困らないだけの塩分がありますが、陸に上がってしまってはそう簡単に塩分をとることはできません。

ここで発達したのがRAS系と考えられています。
簡単にいうと、RAS系は体の塩分を保つ機能です。
ただし、今は塩分のたっぷり入った食事を朝・昼・晩とって、さらに普段あまり汗をかきません。
そうなるとRAS系はうまく機能調節できなくなり、無駄に体のなかに塩分(ナトリウム)を溜め込んでしまう原因になります。
それで生まれたのがACE阻害薬やARBといったRAS阻害薬です。

レニン・アンジオテンシン系(RAS系)の中身は?

まず重要な登場キャラクター5つです。
・アンジオテンシノーゲン
・アンジオテンシンⅠ
・アンジオテンシンⅡ
・レニン
・アンジオテンシン変換酵素(ACE)

この中で上3つはペプチドで、レニンとACEは「酵素」です。
基本的にはこれらの働きをどこかで抑えてるものが薬として使われています。

その関係は次のようになっています。

アンジオテンシノーゲン
 ↓←レニン
アンジオテンシンⅠ
 ↓←ACE
アンジオテンシンⅡ
 ↓
「アルドステロン分泌」「血管の収縮」「水・Na の再吸収」
⇒血圧上昇

RAS系で最も重要なのが「レニン」(律速酵素)と言われています。
肝臓のアンジオテンシノーゲンは1000個に1、2個がレニンによりアンジオテンシンⅠになります。

アンジオテンシンⅠはそのままアンジオテンシンⅡになるので、レニンの働きの強弱がアンジオテンシンⅡの生成に大きく影響していると考えられます。

アンジオテンシンⅡはネガティブフィードバックによりレニンを働きを抑えるので、うまくRAS系のバランスは保たれています。

「全身循環系RAS」と「組織局所RAS」

上で説明したRAS系は「全身循環系」での大まかな流れですが、
最近では、脳・心臓・腎臓などそれぞれの組織で独立した「組織局所RAS」の存在も知られてきています。

組織局所系RASでは、それぞれの臓器の組織や細胞レベルでアンジオテンシンⅡの発現調節が行われ、その局所で産生されたアンジオテンシンⅡが高血圧、糖尿病、肥満などさまざまな病態に関わっていることが分かってきています。

これが、それぞれのRAS阻害薬の効果を特徴づけ、「臓器保護作用」が期待できるのもここに由来するものと考えられています。

現在、使われているRAS阻害薬は、ACE阻害薬、ARB、直接的レニン阻害薬(DRI)、それに加えてRASの下流因子であるアルドステロンを抑えるアルドステロン拮抗薬の四つです。
以下、それぞれの簡単な特徴について説明します。

① ACE阻害薬
 ~作用は強いが副作用あり~

ACEを阻害することでアンジオテンシンⅡの産生を抑制します。
一方で、生理活性物質のブラジキニンの分解を抑制してNO(一酸化窒素)の放出を促し、心血管を保護する作用があります。
※ニトログリセリンはこのNOを増やして狭心症を改善します。

その他にも次のような特徴もあります。
・降圧による臓器血流の減少が起こりにくい
・腎保護作用がある
・Na排泄、K保持機能がある
・起立性低血圧を起こしにくい

しかし、副作用も比較的多くのものが報告されています。
代表的なのが空咳です。ブラジキニンの分解抑制により、気道にある受容体を刺激することが原因です。
空咳が出るのは、服用後1〜2カ月後が多いですが、1〜2年後に出てくることもあります。
風邪と勘違いすることもあるので、空咳が長引くときは主治医に相談しましょう。

空咳以外にも浮腫、発疹、味覚障害が出現することがあります。
また、腎機能障害がある人ではさらに悪化させることがあるので、用量の調節が必要になります。

ACE阻害薬は、高血圧がある比較的若年層(50〜60歳代前半)で、特に他の臓器に異常がみられない人に適する薬です。

② A R B
 ~副作用がほとんどなく、第一選択薬にも~

ARBはアンジオテンシンⅡのAT1受容体を選択的に抑制します。
ARBには心・腎の保護作用があることがわかっています。

一度心筋梗塞を起こした人の再梗塞を防ぐことや、心筋梗塞の人が心不全になるのを防ぐことが重要なポイントになります。
こういった「ニ次予防効果」がARBの大きな魅力のひとつです。

ACE阻害薬と比べると、強力な降圧効果がないかわりに副作用も出にくいので、比較的高齢の方(70歳代前半ぐらいまで)で、臓器障害が少し進んだ患者さんにも使えます。
また、ACE阻害薬を使ってみて副作用などがでてしまった人にARBに変更することもあります。
ただ、ふらつきや高K血症が出現することがあるので、とくに腎機能障害がある人への投与には注意を要します。

③ 選択的アルドステロン拮抗薬
 ~利尿作用があり心不全に有効~

アルドステロンは副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンの一つです。
アンジオテンシンⅡにより分泌が促進されるので、RAS系の最終産物とも言えます。
腎でのNaや水の再吸収を促進し、体液量を増加させて血圧を上昇させます。

アルドステロン拮抗薬は、アルドステロン受容体を阻害することで降圧効果を発揮します。
昔から使われているスピロノラクトンと、選択的アルドステロン拮抗薬と呼ばれる比較的新しいエプレレノンがあります。
スピロノラクトンはそもそも利尿薬なので、心不全があって少し体液貯留があるような人に投与すると非常に有効です。

高血圧があって、心不全が前面に出ている人、体液貯留はあるものの、腎機能はそれほど障害されていないような人に効果的です。
選択的アルドステロン拮抗薬(エプレレノン)を使うことで心筋の線維化を遅らせ、心房細動予防効果も期待できます。

問題点は、Kが貯留しやすくなることです。とくにACE阻害薬やARBとの併用では高K血症の出現に注意を要します。スピロノラクトンでは、女性化乳房や乳房痛などの副作用が問題でしたが、エプレレノンではその問題が解消されています。

④ D R I (直接的レニン阻害薬)
 ~作用は強力だが、まだまだ副作用も心配~

最初に説明したようにRASの起点にあるレニンを直接的に阻害する薬です。
24時間以上にわたり安定した降圧効果を示します。

世界規模の臨床試験の結果では、非常によい薬だという半面、作用が強力なためか有害事象により試験が中止になってしまうような例も報告されています。

他のRAS阻害薬との併用時にはとくに副作用に注意する必要があります。
糖尿病で腎機能の低下している患者で、他のRAS阻害薬を併用している患者では高カリウム(K)血症や低血圧が報告されており、使用できなくなっています。

新規の薬なので、臓器障害を合併しているなどのリスクの高い患者さんにはなるべく使わず単なる高血圧で、他の臓器に障害がないような若年の患者に使用していきます。

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コメント

  1. 匿名 より:

    ARBが第一選択???

    • しゅがあ より:

      コメントいただきありがとうございます。

      日経メディカル オンラインが実施した「高血圧治療に関する調査2012-2013」によると、2009年からはCa拮抗薬を抜いて、初回の処方選択としては第1位となったようです。そちらを参考とさせていだきました。

      しかしながらひとつのデータでしたので、誤解を回避するため表記を変更致しました。ご指摘ありがとうございます。