去痰薬とは
最も使われるけど、最も効いているんだかどうか分からない薬の総称。地味に種類も多く、多くの者にとってその違いが分からない。
どうも、こんにちは。
ということで、今回は「去痰薬」をがんばってまとめていこうと思います。
だぶん去痰薬って、医療にかかわる人なら絶対に一度は疑問をもつと思うんですよね。間違いなく。
でも、まあいっかってなっちゃうんですよ。だって、あまりにもさりげないからね、こいつ。
今回のお話で、ちょっとでもすっきりしてくれたら嬉しいです。
では、早速いきましょう!
目次
そもそも痰ってなんぞ?
去痰薬を語るなら、当たり前ですが「痰」について知らないといけないですよね。
決してきれいなイメージはないんですが、痰はいったい何からできているのか?
じらさずにいうと、成分的には9割が水分で、それ以外に「ムチン」というムチムチとした糖蛋白質が主成分です。あの粘っこい正体ですね。
そもそも、正常な人でも気道の分泌物というのは100mlくらい出ています。コップ半分くらい。
そして、痰というのはムチンという成分が過剰に分泌されちゃった状態なんです。なんでムチンが多くなってしまったかというと、感染症やアレルギーなんかで炎症性のサイトカインが分泌されて、ムチンの産生が増加するからです。
おまけに痰についている色。細菌感染であれば好中球が気道に集まってきて、そこに含まれている酵素の性質で黄色になって、さらに数が多くなると緑色になるらしいです。色がついていたら、感染が疑われるということですね。
で、話をもどしていくと、痰そのものは体には害はありません。しかし、粘度が上がっていったり、量が多すぎるとうまく排出されずに詰まってしまいます。
それによって、日常生活が不快になったり、高齢で寝たきりの患者さんは痰が原因で窒息することもあります。だから、去痰薬をバシバシ使っていきましょうということなんです。
去痰薬のメカニズム
去痰薬とひとくちにいっても、その作用は実はけっこう違うようなのです。
ただ、それぞれの作用機序は複合的なものも多いので、きっちりと分類できないものもあります。(これが分からなくなる原因!)
なので、あくまでふんわりとしたイメージをもっておくのも大切だと思います。そういうゆるい感じで覚えてもらったほうがいいと思う。うん。
ムチンをぶったぎれ!
まず1つの考えは、先ほど登場したムチンをなんとかすれば、すこし痰は楽になりそうです。
ムチンの構造は、大量の糖と蛋白が結合した状態になっているため、「糖の部分」か「蛋白の部分」どちらかを分解して(=ちょんぎって)粘度を下げようとする薬があります。
1つ目のグループが〇〇システインという薬。たとえばアセチルシステイン(商品名:ムコフィリン)、メチルシステイン(商品名:ペクタイト)、エチルシステイン(商品名:チスタニン)などがあります。
これはそのシステインという名前からイメージできるように、ムコ蛋白に含まれるーSーS-結合(通称、ジスルフィド結合)を化学的にぶったぎっていきます。
もう一つがムチンの糖部分を分解していく塩酸ブロムヘキシン(商品名:ビソルボン)があります。
これらのグループは、その「切断」という作用から「痰の粘性を下げる」という効果が期待できそうです。
ただし、ブロムヘキシンに関してはなかなかのオールラウンダーのようで、他にもいろんな作用があります。
・気道の漿液性成分とリソソーム顆粒の分泌を促進⇒リソソーム酵素によって痰を溶解、痰の粘性を低下させる。
・肺表面活性物質(肺サーファクタント)の分泌促進作用
どうですか?ちょっと懐かしいですよね(笑。
ということで、ブロムヘキシンに関しては、痰の粘性を下げると同時にすべりもよくするという粘液溶解+粘膜潤滑も期待できるお得な薬なんですね。
気道をすべすべにしたれ!
次に考えられるのは、痰が気道の壁にくっつかないようにして排出しやすくする戦法です。
その代表選手がアンブロキソール(商品名:ムコソルバン)です。こいつは、実はブロムヘキシンの活性代謝物の1つ(変身後の姿)です。
なので、アンブロキソールの効果はブロムヘキシンも一部もっていると考えてよいと思います。
ちなみに、アンブロキソールに関してはムチンをちょんぎる力はありません。
もっているのは、肺表面活性物質(肺サーファクタント)の分泌を促進する効果と線毛(気道の表面にある動く毛のこと)の運動を促進する効果などです。
これによって、気道をすべすべにして、痰を排泄できるように運んでいくわけですね。
謎の気道粘液修復薬とは?
これがよく使われるけど、なんだかよく分からないグループです。薬剤名でいうと、カルボシステイン(商品名:ムコダイン)、フドステイン(商品名:クリアナール)があります。
少し復習ですが、ムチンは骨格になる蛋白質と側鎖であるオリゴ糖から構成される糖蛋白でしたよね。
で、この糖鎖の末端は「フコース」や「シアル酸」からつくられていて、この2種の糖の比率の変動は、痰の粘性、弾力、働き(生物活性)に影響を与えています。
実は、中性のフコースと酸性のシアル酸が表層に存在することで、その比率が糖蛋白の表面の電荷の状態を決めています。
そして、糖蛋白の鎖同士の重合・凝集(お互いに結合したり、集まったりすること)が、この電荷によって影響を受けるため、痰の性質が大きく変わると考えられています。
どうですか?少しはイメージできましたか?^^
薬理の授業で習った「シアル酸 / フコース比」のことですね!
慢性呼吸器疾患の患者を対象にした実験があって、彼らの痰を検査したらシアル酸 / フコース比が痰の粘性と負の相関を示したそうなのです。つまり、シアル酸が増えれば痰はサラサラに、フコースが増えれば痰はネバネバになるということです。
気道の分泌液というのは、このちょうどよいネバネバ感が大切で、そのバランスが崩れると線毛でうまく輸送できなくなって、詰まりの原因になるわけですね。
話を戻すと、気道粘液修復薬はこの「シアル酸 / フコース比」をバランスさせて(増加させ)、痰の粘稠度を調節する働きがあるのです。
また、これらの薬剤には、ムチンを分泌する杯細胞の過形成を抑制するという効果も知られています。ちなみに、他の去痰薬では、臨床用量を大きく超えた用量でしかこの効果はみられないので、「痰の量を減らす」ということを考えると有用だといえます。
まとめ
以上の内容と現場医師の使用法をまとめていくと、ざっと次のようになります。
☆痰のキレはそんなに悪くないけど、量が多くて出しづらい!
⇒杯細胞過形成を抑制できるムコダイン、クリアナール
☆痰の量はそんなに多くないけど、喉にひっかかる感じがある!
⇒ぶったぎって気道もすべすべにする「ムコソルバン+ビソルボン」
☆痰の量も多いしひっかかるし、とりあえずなんとかして!
⇒ムコダイン、クリアナールで痰の量をコントロールして、ムコソルバンで痰のキレを改善!
という感じになりそうです^^
あと、去痰薬の新しい使われ方として、慢性閉塞性肺疾患(COPD:慢性気管支炎や肺気腫などの総称)への応用が最近かなり熱いです。
それぞれの去痰薬について、COPDの増悪抑制に関するエビデンスもたくさん報告されていますので、気になったらそのあたりもチェックしてみるといいと思います。
では、最後までお読みいただきありがとうございました!
コメント
耳鼻科隣接薬局勤務で去痰剤の区別は知ってるつもりだったのに、ムコソルバンがビソルボンの活性代謝物とはじめて知りました。勉強になります。